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『忘れられた日本人』をひらく 宮本常一と「世間」のデモクラシー

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『忘れられた日本人』をひらく 宮本常一と「世間」のデモクラシー / 著者・若林恵、畑中章宏 / 黒鳥社



日本がある場所



信州・上田に移住をしてきてよくいくカフェがあります。
それは佐久市・望月にあるYUSHI CAFEさんです。面影 book&craftの内装デザインを手掛けてくださったTokyo pm. / PARKERさんがそこのコーヒー豆を仕入れてドリンクで使ったりと、話に聞いていましたが、実際にYUSHI CAFEに足を運んだのはそれよりずっと後になりました。

実際に足を運んでみると、いわゆる“古民家”のカフェのような出立ちなのですが、中に入ってみると、“古民家”という言葉の響きからイメージされるような古さ加減はほとんど感じられず、古い骨董品をはじめさまざまな物が然るべき場所や設で佇んでいる姿に、こころが動かされてしまったのです。この感覚は、それ以降何度も訪れても同じように感じられます。そしてカウンター席には、この望月エリアで暮らしている渋さを漂わせている農家や職人のお爺さんや少し品のあるお婆さんなどが所狭しと並んで珈琲を嗜みながら、会話をしている姿がなんとも絵になるそんな場所なのです。はじめは内装や設に目が言っていましたが、今ではそんな絵になる空気感に心底惚れ込んでしまっているのです。


さて、なぜこんな話をしているのかというと、本書『『忘れられた日本人』をひらく 宮本常一と「世間」のデモクラシー』のはじめにで、日本が戦後いわゆる『縦社会』から『横社会』に変革していく際に、『縦社会』を無闇に真向から否定してしまったということが論じられています。つまり、『縦社会』の中にもゆるい『横社会』も存在もあり、そこを蔑ろにしてきてしまった故、現代の縁の薄い社会になってきてしまっているのではないのかと仮説が立てられています。
そんなことを頭に入れつつ、目線をYUSHI CAFEのカウンターに戻してみると、なるほど確かにそこにいる方たちの職種は、農家や職人という『縦社会』的な関係性の中で日々を営んでいますが、一歩カフェというフラットで寄合的な場所に足を踏み込めばそこには『横社会』が広がっているのです。YUSHI CAFEで長らく働き、現在は独立してomokage groceryでも焼き菓子を扱わせてもらっているdaenさんの日記zine『ユーシカフェ日記』を一読すれば、そこに集っている方たちが互い素性などを知らずにその場だけの“友人”としてゆるい横のつながりが生まれ、日々の会話などが繰り広げられているということがわかるはずです。(ユーシカフェ日記ではそれを劇場と表現しています)その様子がどこか私たちの記憶の奥底にある日本人としての佇まいや空気感がそこにあり、それを見たり感じたりすることで僕は心底惚れ込んでしまったのかもしれません。


本書『『忘れられた日本人』をひらく 宮本常一と「世間」のデモクラシー』は、編集者・若林恵が民俗学者・畑中章宏と「忘れられた日本人」と「民主主義」の新たな姿をさがす、寄り道だらけの対話篇です。
不世出の民俗学者・宮本常一の主著のひとつであり、今なお愛され読み継がれる『忘れられた日本人』。そこに描かれた日本人の姿を、ノスタルジアや復古主義に陥ることなく、グローバリズムとナショナリズムとが錯綜する21世紀の世界のなかにいかに価値づけ、その可能性を対話で展開しています。



<目次>

はじめに 若林恵

1. 翻訳 translation

2. 反作用 reaction

3. 寄合 consensus

4. 実施 practice

5. 経営体 enterprise

6. 海賊 pirates

7. 世間 worldly

8. 環世界 unwelt

9. 進歩 progress

10. 実験 experiment

11. 道具 tools

12. 伝承 lore

おわりに 畑中章宏




若林恵
黒鳥社コンテンツディレクター。平凡社『月刊太陽』編集部を経て2000年にフリー編集者として独立。以後、雑誌、書籍、展覧会の図録などの編集を多数手がける。音楽ジャーナリストとしても活動。2012年に『WIRED』日本版編集長就任、2017年退任。2018年、黒鳥社設立。著書『だえん問答 コロナの迷宮』(黒鳥社・2020年12月刊行)、『さよなら未来』(岩波書店・2018年4月刊行)、責任編集『次世代ガバメント 小さくて大きい政府のつくり方』。「こんにちは未来」「〈働くこと〉の人類学」「音読ブラックスワン」などのポッドキャストの企画制作でも知られる


畑中章宏
1962年、大阪府生まれ。民俗学者。民間信仰・災害伝承から最新流行の風俗まで幅広い対象に取り組む。著書に『災害と妖怪』『忘れられた日本憲法』(ともに亜紀書房)、『天災と日本人』『廃仏毀釈』(ともにちくま新書)、『21世紀の民俗学』(KADOKAWA)、『死者の民主主義』(トランスビュー)、『五輪と万博』『医療民俗学序説』(ともに春秋社)ほか多数。

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