建築の前夜―前川國男文集 / 著者・前川國男 / 而立書房
近代建築の夜明け
昨年2023年に上映された映画『AALTO』を鑑賞後、『モダニズム』や『建築』といったことに目が向き始め、作者の美意識や思考の総体が『建築』なのではないだろうかという気がしてきています。もちろん料理人もその類の中に入るかと思いますが、その美意識の総体を体験する時間を考えてみれば、圧倒的に自分たちを取り巻く『建築』こそが体感としては長いのです。
そんなことを考えながら実家に年一回の帰省をしている折、自分の住んでいる地元にモダニズム建築の旗手として、第二次世界大戦後の日本建築界をリードした前川國男氏の自邸が展示保存されていることで、家族で見に行ってきました。表向きは日本家屋なのですが、内装はどこか日本的というよりは西洋の設やトーンを想起させ、戦後の高度成長期の中で規格化されていった住宅建築の中で感じることのできない不思議な空気感がそこにはあったのです。そんな不思議さを胸に帰宅後に前川國男の手がけた建築を探してみると、東京都美術館や東京文化会館、さらには紀伊國屋書店新宿店、世田谷区役所など、前川國男の建築とは知らずに自分が普段何気なく足を運んでいた場所がちらほら。でも考えてみると毎回それらの場所に行くと不思議な空気感を感じ取っていたのは間違いなかったのです。
本書『建築の前夜―前川國男文集』は、ル・コルビュジェに師事し、戦前戦後を通じて日本建築界に大きな足跡を残した建築家・前川國男(1905~1986)の生涯追い求めた「近代建築」とは何だったのかということが、ル・コルビュジエのもとから帰国する1930年から亡くなる1986年までの57年間に書かれた、41編の論考が彼の言葉で収められています。
目を通してみると前川國男という人柄が如実に現れていて、「和して同ぜず」のごとく、周りと和むけれど決して同化していかないような一本筋が通った人であったことが伺えます。
前川國男は本書の中で、『日本精神の伝統は結局「ホンモノ」を愛する心であったではないか』と語ります。
わたしたちが前川國男の建築で感じる空気感はこの「ホンモノ」だったのかもしれません。
<目次>
文集によせて 大谷幸夫
Mr.建築家-前川國男というラディカリズム 布野修司
I 1930-1945年
II 1945-1959年
III 1960-1969年
IV 1970-1986年
対談 建築家の思想 前川國男・藤井正一郎
年表
文章目録・補遺
執筆者略歴
出版まで あとがきに代えて 藤原千晴
前川國男
1905 年生まれ。1928年東京帝国大学工学部建築学科を卒業。卒業と同時にパリへ赴きル・コルビュジエのアトリエで学ぶ。帰国後、レーモンド建築設計事務所を経て、1935年前川國男建築設計事務所を設立。50年にわたる建築家としての活動の間に日本建築家協会会長、UIA 副会長などを歴任。日本建築学会大賞、朝日賞、毎日芸術賞、カーギュスト・ペレー賞など多数受賞。代表作には東京文化会館、紀伊国屋書店、京都会館、熊本県立美術館、東京海上ビルほかがある。1986年6月26日没。享年81歳。