オルガの木靴 / 著者・吉田昌太郎 / 目の眼
街の中の癒し
旅先などを含めると、本当に様々なところを歩いてきたと思います。時にはコペンハーゲンやストックホルム、もちろん今まで生活していた東京や今の信州・上田、会社員時代は職場のあった浦和周辺はわざと最寄りの駅の3駅前くらいで降りて30分くらい歩いてある種の準備運動的な脳内の仕事の整理などをしてから会社に通っていました。
そして特に印象に残っているのは、品川の戸越銀座に住んでいた時に、当時活動の拠点となっていた表参道まで徒歩で移動していた時期です。片道1時間、往復2時間のちょっとしたショートトリップといっても良いくらいの距離感で、目黒や恵比寿、西麻布や時には広尾方面から抜けて表参道に辿り着くのですが、今改めて考えてみると大都市を闊歩していたんだなと思わせられます。秋から春にかけては程よい運動になるのですが、夏はどうしても途中で休憩を挟まないといけなくて、そんな時によく立ち寄っていたのが、アンティークショップ「tamiser(タミゼ)」でした。
世界中から買い付けられた品々が程よく空間に配置されており、だいたいこういったショップというものは“所狭し”という枕をつけたくなるものですが、タミゼの場合は絶妙な丁度良い加減で置かれている印象で、物と物の関係性がとても心地よい空間を作り上げるということを体感でき、帰り道に寄らせてもらうのは自分の中でも至福の時間となっていました。そしてその当時北欧を中心にヴィンテージ品を買付し販売をしていたので、物をどう見せていき世界観を作っていくかという面においてもとても学びのある場所でした。
本書『オルガの木靴』はそんなアンティークショップ「tamiser」の店主である吉田昌太郎さんの著書になります。
店主・吉田昌太郎さんの眼で選ばれた、はかなくも力強い東洋西洋の古物たち。そしてそれらを 絶妙なバランスで陳列し、「昌太郎ワールド」としか言いようのない独特の空間演出に惹かれ、 「タミゼ」にはアンティークファンだけでなくデザイナーやアーティストも多く訪れていました。
そして2021年、「tamiser」は20周年を機に東京を離れ、吉田さんの故郷である 栃木県・黒磯に移転し営業を続けています。
本書は、第2章を迎えた吉田昌太郎さんが選び抜いた 100点の古物をまとめた図録であり、「tamiser」の過去・現在・未来を紡いだ作品集です。
コロナ禍で海外への仕入れもままならず、モノが集まらない中、「自分の心を満たす美のカケラ は身の回りのすぐ近くにある」と自分に言い聞かせ、ひとつひとつ宝探しのように集めた100 点が紡ぎ出す世界が閉じこめられています。
巻末に掲載された現代美術家の青柳龍太さんや舞台演出家の藤田康城さんの寄稿文も自分の知らない「tamiser」を追想するような感覚になるので、じんわりと心に残ります。
街の中にこういったショップがあることが当たり前と思う勿れ。
是非ページをめくってみてください。
吉田昌太郎
アンティークスタミゼ店主