定形外郵便 / 著者・堀江敏幸 / 新潮社
美しい言葉と知識の泉
ジャコメッティ、駒井哲郎、モンテーニュ、安東次男、ユルスナール、ピカソ、長谷川四郎、小村雪岱、ルクレール、倉俣史朗……。一度は聞いたことのある名前だと思いますが、これらの絵画や彫刻、映画、写真、音楽などアート全般に造詣の深い、本書『定形外郵便』の著者・堀江敏幸さんが、独自の視点や見解、解釈を加えながら言葉として表現したエッセイ(『芸術新潮』で好評連載中のエッセイ・コラムを集めた文章)がおさめられています。
堀江さんの文章は少し難しい表現がありますが、一つ二つエッセイを読み進めてみると選び抜かれた言葉が美しい景色を頭の中に浮かび上がらせてくれます。
そう思うのと同時に、もし仮に、その言葉でなかった場合、全く別の印象を文章に与えてしまうのだろうと、その繊細な表現に驚嘆し、まさにその様式美が他にはないという意味で本書のタイトルにもある“定形外”なのかもしれないなと思いました。
こころを沈めて、美しい言葉と知識の泉に酔いしれる一冊です。
<目次>
零度の愛について
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責任の所在
一度しかない反復
内的な組み合わせ
ミロと電話線
最後の恐竜
てのひらの石膏像
呪縛について
言葉の羽虫を放つ
胃の痛む話
右から六人目のフォートリエ
嗅覚の恐怖政治
まだらな青
汚染に抗うための再読
海に叫んだあとの日々
話し合う夏
幻影の家政学
申し訳ない
記憶の埋設法
起源を見つめる力
茫然自失の教え
開かれた孤島で
体験の角度について
安置すべきもの
観覧車のとなりで
挨拶を禁じること
侯爵夫人の絶望に寄せて
時間割と縄跳び
山羊の謡
用語について煩悶すること
傷つきつつ読みとったもの
近くでなければとらえられないもの
三角定規の使い方
分かちがたく結ばれた友
輪ゴムの教え
二つの恋のメロディ
セメント樽の中の手紙
全集になかったもの
ゲームはすでに終わっている
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渇いた朝の把握
ぶんらくぶんらく
夏の家で
作品から思想へ
作品に見つめられること
うごうごする言葉
余白の按分
あの日ブレストは
原原種のゆくえ
アンスニの三姉妹
半世紀ぶりの舟歌
背文字のない本
憎しみの基準
信用に足るもの
知のコンデンスミルク
ミナカワリナシ
統計と検札
観音様の手
思考の水分
浸透圧のこと
森のなかの空き地を求めて
壊れたレンズの功徳
即興演奏に関する覚え書き
君たちが元気なのがとてもうれしい
看板について
すべてが後方になる前に
隠れ身の術
Fの重なり
最低感度⽅向について
アンダンテのつぎに来るもの
モラルの種
破壊の前の沈黙
門を開けさせた人
根元的なところでの同意
ムール貝が伝えるもの
お好み焼きをつくるんです
小学生の手習いのように
適材適所の使い方
犀の角のように
前を向いて静かに萎れていけばいい
堀江敏幸
1964(昭和39)年、岐阜県生れ。1999(平成11)年『おぱらばん』で三島由紀夫賞、2001年「熊の敷石」で芥川賞、2003年「スタンス・ドット」で川端康成文学賞、2004年、同作収録の『雪沼とその周辺』で谷崎潤一郎賞、木山捷平文学賞、2006年、『河岸忘日抄』で読売文学賞を受賞。おもな著書に、『郊外へ』『いつか王子駅で』『めぐらし屋』『バン・マリーへの手紙』『アイロンと朝の詩人―回送電車III―』『未見坂』ほか。