コーヒーに砂糖は入れない / 著者・松下育男 / 思潮社
こころの声
学生時代、決まって同じ面子とつるんでいたように思います。
所属しているサッカー部の連中。部活以外の時はやたら気の合う野球部たち。
体育会系の部活が盛んな中高一貫校だったこともあり、決まってつるむのは運動部系の人たちでした。きっと見えないスクールカーストなどが皆の無意識の中にあり、そこに盲目になっていたのだろうと思います。人が集まればそのような状態になるかもしれませんが、そこに自分が従順に従うかどうかは自分次第だったのです。その時の自分はそんな選択をしてこなったのです。
今、大人になって思い返してみると、とても勿体無いことをしたなと思う気持ちもあります。ほとんど話をしたことのない人たちの方が実は大半だったのですから。きっと面白いことを密かに考えていたやつもいたかもしれません。きっと自分ともっと気の合うやつもいたかもしれません。けれどその人たちがその時、何を思いどんな言葉を紡いでいたのか、今は想像の範疇を出ることないのです。
本書『コーヒーに砂糖は入れない』に編纂された詩を読んでいるとなぜかこんなモノ思いにふけたくなりました。というのもこの詩集にある言葉の数々はとてもピュアだからで、それはまさにあの時知る由もなかった声や言葉だったのだろうと思ったからです。
人生は甘くない 日々に ゆらいで そのゆらぎのままここを 降りようとしているね (「コーヒーに砂糖は入れない」) 「コーヒーに砂糖は/入れない//もうなにも/これ以上あまくしたくないから」。大事なことはすべて書いた。繊細なこころ、恥ずかしい思いもすべて。何度かの沈黙をへて書き継がれた16の詩篇。生きていくために、これだけは言っておきたいこと。18年ぶりの新詩集。
あなたのこころの声は届いていますか。
<目次>
コーヒーに砂糖は入れない
遠賀川
六郷川
切らなきゃならない玉ねぎは
哺乳瓶を置く場所がなかったから
ほかのものがみたい
人生にうんざりする前に
いのちにいじめられていると
掌の中のカタムキ
夜のポンプ
日記のように 2019
床屋で
バス停で傘をさしていた
バスは急カーブを曲がって
いっとうはじめにふるあめは
わたしたちはやわらかい
松下育男
日本の詩人。