新版 狭い道 ―家族と仕事と愛すること / 著者・山尾三省 / 新泉社
ともに、生きること
子どもの頃から独立心が強く早く大人になりたいと思っていた子どもだったように思います。なので20代の頃は自分が“社会”の中で活躍し続けるということをいつも頭の片隅に置きながらさまざまなことをやっていました。会社の仕事だけでなく、セルフプロジェクトから派生した北欧を探求するための活動やそれに伴う旅。本当にこの体力はどこから湧き上がっていたのかと、振り返ると感じますがほとんどが気力をベースに何かに突き動かされていたんだと思います。
そして月日が経ち、経験などの数が増えていくと、今まで自分が意識していた“社会”というものは、自分の頭、もしくはメディアの中で作られたある種の幻想であり、確たるものは存在し得ないということがようやく理解してきた30代。そして結婚と子どもが生まれたことで『家族』というミニマムな確かな“社会”がそこにありました。今では20代の頃に考えていた“社会”で名をあげるという意識もほぼ脱ぎ捨て、『家族』をどのように楽しいものにしていけるのか、そしてどう生きていくのかということに興味関心があります。
さて、こんな思いを掻き立ててくれたのがこちらの『新版 狭い道 ―家族と仕事と愛すること』です。本書は、詩人・山尾三省が経済的な勝ち負けや物質的な豊かさに背を向けた暮らしのなかで、日々の思いをつづったエッセイ集です。妻や子供のこと、野山で働くこと、お金のこと、ローカルな社会のこと、自然の恵みを味わうこと、海や友だちを心の底から愛すること、がリアルに描かれているのが印象的な内容です。
誰かに言い訳をするように取り繕った生活ではなく、嘘がなく正直な生き方の山尾三省。『彼が家族との生活をとおして、伝えてくれたことは、家族とまいにちくらすことが、社会を変えるということだ。土を耕し、いちにち、いちにちをおくるくらしが、いま、まっとうで、あたらしい。』と解説で布作家の早川ユミさんが語るように、一番身近な家族とどのような関係性を育むのかということが世の中に変化をもたらすことなのだと改めて考えさせられます。
「嘘のない人間の生活」を求めた詩人のことばは、本当に大切なものは何かと、いまを生きる私たちにやさしく問いかけます。
ともに、生きることを考えるタイミングは今です。
<目次>
子供達へ
仕事について
出会い
ナシとビーナ
誕生日
海
お金について
場について
木を伐ること
ツワブキ
境い目
桃の花
白川山
梅
お帰りなさい
アニキ
お茶
子供達に与える詩
あとがき
あたらしい家族論 早川ユミ
山尾三省
1938年、東京・神田に生まれる。早稲田大学文学部西洋哲学科中退。
67年、「部族」と称する対抗文化コミューン運動を起こす。73〜74年、インド・ネパールの聖地を1年間巡礼。
75年、東京・西荻窪のほびっと村の創立に参加し、無農薬野菜の販売を手がける。77年、家族とともに屋久島の一湊白川山に移住し、耕し、詩作し、祈る暮らしを続ける。
2001年8月28日、逝去。
著書『聖老人』『アニミズムという希望』『リグ・ヴェーダの智慧』『南の光のなかで』『原郷への道』『インド巡礼日記』『ネパール巡礼日記』『ここで暮らす楽しみ』『森羅万象の中へ』『狭い道』『野の道』(以上、野草社)、『法華経の森を歩く』『日月燈明如来の贈りもの』(以上、水書坊)、『ジョーがくれた石』『カミを詠んだ一茶の俳句』(以上、地湧社)ほか。
詩集『びろう葉帽子の下で』『祈り』『火を焚きなさい』(以上、野草社)、『新月』『三光鳥』『親和力』(以上、くだかけ社)、『森の家から』(草光舎)、『南無不可思議光仏』(オフィス21)ほか。