物語のあるところ - 月舟町ダイアローグ - / 著者・吉田篤弘 / ちくまプリマー新書
著者・吉田篤弘さんの代表作『つむじ風食堂の夜』。
この物語の舞台でもある架空の街「月舟町」。
こちらの「月舟町」を舞台にした小説はいくつか刊行されていますが、今回は小説家「吉田篤弘」さんが、今までこの町を舞台にした小説の主人公たちと物語について対話をしていくという物語論になっています。
物語論という字面を見れば、少し身構えてしまうかも知れませんが、中身は小説仕立てで、吉田さんの小説を読んだことのある方は懐かしの(お馴染みの?)登場人物たちと再会ができます。
作者と登場人物はイコールなのか。
一人称で書くか、三人称で書くか。
即興とは何か、デタラメとは何か。
物語に意図やテーマは必要なのか。
こだわりは持つべきか、捨てるべきか。
物語を動かすのは「負の力」なのか。
こういった問いかけを出しながら、登場人物たちと対話を進めています。
中でも本質をついてくるのが、「デ・ニーロの親方」の言葉。
「あまりにも出来すぎたものには、「あそび」がない。(中略)漢字の「遊び」じゃねぇぜ。ひらがなの「遊び」だよ。」といったように、対話相手である吉田さんだけでなく、読者の私たちにもグッとくるキーワードが散りばめられています。
読み終わって気付いたのですが、それぞれの考え方の異なった登場人物も吉田さんが書いているので、この本の中では、一人二役(いや、二役どころではありません。)ということに改めて驚いてしまいました。
是非吉田さんの世界観を味わってみてください。
【目次】
1 皿の上には何がある?
〈りんご箱〉
〈登場人物〉
〈いろいろな「私」〉
〈デタラメと即興〉
〈よく分からないもの〉
2 遠くに見えている灯り
〈切実な犠牲者〉
〈オーサー〉
〈ハッピーエンド〉