レトロな新たな感覚
中高時代に毎日通った東京・国分寺。今でこそ駅前周辺が再開発されてきれいになっていますが、自分が学生時代の時は西東京の歓楽街的な怪しげな店がちらほらとあるようなエリアでした。チェーン店などはあまりなく、どこか古びたでも味があるその店構えやご飯処であれば味へのこだわりなどを感じられる店がこれまた大通りから一本奥にいった小道などにあるのです。
『甚五郎』といううどん・そば屋もその一つ。国分寺のある武蔵野エリアは江戸時代に入るまでは水源などに乏しく、小麦を栽培し、うどんをよく作っていたそうで、太くてコシのある『武蔵野うどん』というご当地グルメになっているほど市民に愛されています。この『甚五郎』もその一つで、学生時代が終わって社会人になってからも飲み会の後に小腹を満たすためにわざわざ行ってよく食べていたラム漬けうどんを頼んで、〆ていました。わざわざ通い詰めるほどのお店は、うどんもさることながら、その店内に散りばめられてディスプレイされているレトロな看板がとても味わい深くうどんが運ばれてくるまで、キョロキョロとしてしまうのが常で、国鉄時代の中央線の駅舎の看板や植木等のオロナミンCの看板など自分がその時代に生きていないにも関わらず、いつのまにかそのデザインの風合いに心惹かれているのです。材料などが今とは異なり少なかった時代だからこそできた作風だったり質感、そんな郷愁に包まれながら、うどんを静かに啜るのです。
さて、本書『昭和モダン 広告デザイン 1920-30s』には、カフェやバー、フルーツパーラー、洋品店などが立ち並び、都市文化が花ひらいた大正・昭和初期の街頭ポスターや広告のデザインにフォーカスを当てた一冊です。当時の街には、広告やポスターがあふれ、人とモノとをつなぐ「デザイン」が高揚感と初々しさを伴ってかたちに表されました。本書では200点を超えるポスターやチラシ、広告などが紹介さえています。「懐かしい」の一言では終わらない―、いまなお新鮮な驚きやいきいきとした魅力にあふれるデザインの数々、アールデコやロシア構成主義、ダダイズムといった当時の潮流をうまく取り入れ、それを日本的なモダンな形に落とし込むその手法は既視感の少ないデザインは今見ると新たな発見があるはずです。
デザインなどに携わっている方は、インスピレーションの源になりそうな一冊です。
わたしはというと、この文章を書いているおかげでラム漬けうどんが無性に食べたくなってきてしまいました。
◉掲載例
小印刷物のデザイン(カレンダー・チラシ・便箋・封筒など)
カタログ・リーフレット
ポスター
包装紙・パッケージ
マッチラベル
カット
紙面広告
寄稿:平山亜沙子、浅生ハルミン