杉本博司自伝 影老日記 / 著者・杉本博司 / 新潮社
人生の転機
『私の履歴書』という存在を知ったのは、中学一年生の頃でした。中学生になって初めて迎えた夏休みの日本史の宿題で12年間の人生の記録『自分史』をまとめなさいというのがその宿題の趣旨だったように記憶しています。凝り性の父とマメに育児の記録を残していた母、そして記憶力の良い姉の力を借りながら、駄文ではあったものの、巻末に写真付きの年表付きの約500ページほどの本にして提出したところ、当時の先生たちは驚き、そこから約2年間ほど様々な先生の手に渡り、最終的に自分の手元に宿題のその本が戻ってきたのは、中学卒業を控えた頃だったように思います。前置きが長くなりましたが、日本史の先生からの感想の中に、「いつか君が『私の履歴書』を書く時に必ず役に立つ」と書かれていたのを見て、それが日経新聞に連載されている一企画だということを知ったのでした。
本書『影老日記』は、アーティストであり現代美術家、写真家の杉本博司さんが『私の履歴書』に掲載した内容をさらに追加してまとめられた自身の人生の回顧録になっています。正しく自伝というやつなのですが、そこにまとめられた内容を見てみると、杉本さん自身の”世界”があらゆる要素によって広がっていったことが伺えます。どのようにしてアートの道で生きることになったのか、ニューヨークに居を構えることになったきっかけなど。あらゆる人生の転機というものがまとめられており波乱万丈だったことが伺えます。『気流の鳴る音』の著者・真木祐介と海外で様々な話をしたことなど幅広い交友関係もそうですが、自身の枠組みを広げた要素はやはり、旅と人と本(アート)なのだろうと感じた次第です。
自分の人生を振り返ってみるといつが転機になってくるのでしょうか。
そんなことを考えたくなる一冊です。
<目次>
記憶の始まり
父 三遊亭歌幸
母
先祖の菅野白華
とんがり幼稚園
日光写真
立教中学
唯物史観
放浪の旅
現代美術への道
ジオラマ
ニューヨークの日本人
MoMA 作品購入
劇場
結婚
南画廊
古美術開眼
海景
イリアナ・ソナベント
佐賀町エキジビット・スペース
9・11
スタジオを自作
護王神社再建
苔のむすまで
新素材研究所
ワインとアート
パレ・ド・トーキョー
杉本文楽
料理人になる
能 巣鴨塚
江之浦測候所
ヴェルサイユ宮殿
パリ オペラ・ガルニエ公演
書家になる
空間感
私の人工衛星
あとがき
杉本博司
1948年東京生まれ。立教大学経済学部を卒業後に渡米、アートセンター・カレッジ・オブ・デザイン(ロサンゼルス)で写真を学ぶ。1974年よりニューヨーク在住。「海景」「劇場」「建築」シリーズなどの代表作がメトロポリタン美術館をはじめとする世界有数の美術館に収蔵されている。彫刻、建築、造園、料理、書と多方面に活躍、とりわけ伝統芸能に対する造詣が深く、演出を手掛けた「杉本文楽 曾根崎心中 付り観音廻り」公演は国内外で高い評価を受けた。2008年、新素材研究所を設立。2017年10月、約20年の歳月をかけて建設された文化施設「小田原文化財団 江之浦測候所」をオープン。これまでにハッセルブラッド国際写真賞、高松宮殿下記念世界文化賞(絵画部門)受賞、紫綬褒章受章、フランス芸術文化勲章オフィシエ叙勲、そして2017年、文化功労者に選出される。著書に『苔のむすまで』『現な像』『アートの起源』(新潮社)、『江之浦奇譚』(岩波書店)、『空間感』(マガジンハウス)、『歴史の歴史』(新素材研究所)、『趣味と芸術 謎の割烹 味占郷』(ハースト婦人画報社)、『Old Is New:新素材研究所の仕事』(榊田倫之との共著 平凡社)など。