ことばのくすり―感性を磨き、不安を和らげる33篇 / 著者・稲葉俊郎 / 大和書房
ことばの処方箋
誰かに言われたことがずっと頭から離れずに気になってしまうなんてことは誰しも一度は経験したこともあるはずです。他の人からしたらなんとも無いことでも、当の本人にとっては日常生活がままならなくなってしまうほど、気になってしまう。かくいう私も特に小さい頃などはそんな状態によく陥ってしました。悪いことだけではなく、その投げかけられた『ことば』がポジティブで前向きな『ことば』であればそれは自分の中で生き続け、むしろ育みだして、こころのエネルギーや栄養となって日々を明るいものとしていきます。『ことば』にはそんなチカラが宿っているのだと思います。それはまさに薬そのもの。一歩間違えば本来カラダに効くはずのものも毒にもなる。そんな気がします。
さて本書『ことばのくすり〜感性を磨き、不安を和らげる33篇』の中で著者で軽井沢病院の院長でもある稲葉俊郎さんも『ことば』を『くすり』として捉え、現代社会に蔓延している謎の不安というものをトピックに33篇のエッセイとして一冊にまとめてくれています。
読み進めてみると、一つ一つのトピックに対し、診療室で稲葉さんに話を聞いてもらっているような安心感のある語り口から多くの気づきを得ることができるはずです。そして稲葉さんのモノの考え方は善悪二元論ではなく、どこかグレーな部分があったりして中庸でモノを捉えられる助けになってくれるはずです。
生きていると毎回同じテーマが姿やかたちを変えてわたしたちの前にやってくることでしょう。そんな時は『ことば』をたよりにしてみるのもいいかもしれません。
<目次>
未明のことば(死について;不満と不眠 ほか)
朝のことば(新しく始める、ということ;「空白」としての朝 ほか)
昼のことば(仕事の始まりと「門」;表現の泉 ほか)
夜のことば(迷子のすすめ;眠りこそはすべて ほか)
休日のことば(軽井沢の自然;プラセボと茶道 ほか)
稲葉俊郎
1979年熊本生まれ。医師、医学博士。軽井沢病院長。山形ビエンナーレ芸術監督。東京大学医学部付属病院時代には心臓を内科的に治療するカテーテル治療や先天性心疾患を専門とし、夏には山岳医療にも従事。医療の多様性と調和への土壌づくりのため、西洋医学だけではなく伝統医療、補完代替医療、民間医療も広く修める。国宝『医心方』(平安時代に編集された日本最古の医学書)の勉強会も主宰していた。未来の医療と社会の創発のため、伝統芸能、芸術、民俗学、農業など、あらゆる分野との接点を探る対話を積極的に行っている