最後の講義 完全版 福岡伸一 / 著者・福岡伸一 / 主婦の友社
ビバ生物、ビバ生命
移住を機に自然農で家庭菜園をやるようになり、3年近くが経ちました。東京にいた頃は花を少し飾るくらいしか自然のものが生活の中に浸透しておらず、ましてや虫などが部屋の中に入り込むとそれはもうこの世の終わりかのような気分にさえなっていたことが今では少し笑えてきます。自然農という草や虫を敵としない考え方の農法に出会ってからは、すべての生命が微妙な加減で関わり合いながらそれぞれが、持ちつ持たれつの関係性で生命を育んでいることが農作物の成長や収穫という目に見える形で理解できたことがたくさん採れる収穫物よりも、大きな収穫のように感じます。
さて、本書『最後の講義 完全版 福岡伸一』では、著者でありこの本の企画の登壇者でもある生物学者の福岡伸一さんが、人生最後の講義で何を語るかというコンセプトのもと、講義を行なった内容が文字で語られています。
そこでも福岡さんが仕切りに話をしているのが、生命というのは流れであり、分割されうるものではないということ。物事をミクロに分けて未すぎると全てがパーツの組み合わせのようになってしまい、物事の判断が機械的で効率的なものに置き換わってしまう懸念があると語っています。確かにあらゆる集団の社会生活の中で役割分担などを過度に行い過ぎてしまうと気持ちがついていかなくなってしまうなんてことは誰しも身に覚えがあるかもしれません。実はそういう思考は生命の理とは少し逸脱してしまっている枠組みなのかもしれないなと、改めて考えさせられるのでした。
この一冊を読み終える頃には、生命の神秘的な不思議に好奇心がくすぐられていることでしょう。
ビバ生物、ビバ生命
福岡 伸一
東京都生まれ。京都大学卒業。
ロックフェラー大学およびハーバード大学研究員、京都大学助教授を経て、青山学院大学理工学部化学・生命科学科教授。専攻は分子生物学。著書に『プリオン説はほんとうか?』(講談社ブルーバックス、講談社出版文化賞科学出版賞受賞)、『ロハスの思考』(木楽舍ソトコト新書)、『生物と無生物のあいだ』(講談社現代新書、サントリー学芸賞受賞)、『生命と食』(岩波ブックレット)などがある。2006年、第一回科学ジャーナリスト賞受賞。