インフォーマル・パブリック・ライフ 人が惹かれる街のルール / 著者・飯田美樹 / ミラツク
パブリックは関係性
都市それぞれに好きなエリアというものがある。
20代後半から足繁く通っていた北欧でも紛れもなくそうだ。コペンハーゲンだったらヴェスタブロからフレゼレクスベアまでの間のエリア。ストックホルムであればソーフォーエリア。ヘルシンキであればデザインディストリクト。オスロならトイエンといったところだろうか。インタビュー取材が終わった後、あてもなくこうしたエリアを散歩するのが好きだった。
これらのエリアに共通しているのが、現地の人々の息遣いを感じられるということだろう。観光客のために何か親切に施されている訳でもなく、ただ現地の人たちのやり取りや日々の生活を垣間見れるところが一番面白いところだったのだ。
先日、自然農で栽培している野菜、特にベビーリーフ(ベビーリーフというほどの大きさを遥かに超えたサラダ菜)がたくさん採れたので、面影の実店舗の近くにある重澤珈琲の重澤くんにお裾分けを渡しに訪ねに行った。
すると店内では共通のお客様もいらした中、「たくさん採れたから」とそのベビーリーフを重澤くんに渡したのだ。僕たちとすれば以前もそういうやり取りを頻繁にしているので、割とよくあることなのだが、その場にいたお客様としては、こんなやりとりが日常的に繰り広げられているのか、と驚いた様子だった。インバウンドという言葉がもてはやされる昨今。外の人たち向けに何かを施すのではなく、自分たちが日常的に行っている何気ない営みを正直に魅せることが都市や街を惹きつけるためのエッセンスなのかもしれない。
そんなことを改めて思い起こさせてくれた一冊がこちらの『インフォーマル・パブリック・ライフ 人が惹かれる街のルール』。
前作『カフェから時代は創られる』から15年。著者の飯田美樹さんがパリ、ディジョン、ヴェネチア、コペンハーゲンなど人々が交差する都市や街をなど、世界を旅して調査した心地よい街の実現方法が一冊にまとまっています。
タイトルにも使われている「インフォーマル・パブリック」は、飯田さんの言葉を借りると気楽に行けて予期せぬ誰かや何かに出会えるかもしれない、温かみのある場所のこと。飯田さん自身が、ニュータウンでの暮らしで感じた”暮らしにくさ”から始まる、その暮らしにくさがどこから来るのかを解き明かし、暮らしやすさを自分たち自身の手で生み出せることを伝えてくれる、日々の暮らしの中の疑問に答える一冊になっています。
この本にまとまっている内容は、街や都市に関したことですが、そのフォーカスを身近なところに向ければ、お店作りや場づくり、はたまた家族との関係性までに落とし込むこともできるでしょう。
街の見方が変わってくる一冊です。
<目次>
はじめに
序章 街を自分たちの手に取り戻す
第一部 二十一世紀のまちづくりの核となるもの
第一章 インフォーマル·パブリック·ライフとは
第二章 人が大事にされる街
第二部 二十世紀のアメリカ型郊外の厳しい現実
第三章 人が大事にされない街
第四章 理想の楽園として誕生したイギリスの初期郊外
第五章 幸せのプロパガンダ
第六章 郊外にインフォーマル·パブリック·ライフがないのはなぜか
第三部 車社会からの脱却を目指す世界
第七章 車社会という問題
第八章 脱車社会を目指す世界
第四部 インフォーマル·パブリック·ライフの生み出し方
第九章 インフォーマル·パブリック·ライフを生み出す七つのルール
第十章 カフェだからこそ
飯田美樹
カフェ文化、パブリック・ライフ研究家
学生時代に環境問題に興味を持ち、社会はどうしたら変えられるかに関心を抱く。交換留学でパリ政治学院に行き、世界のエリートたちとの圧倒的な差を感じ、避難所としてのカフェに通う。その頃、パリのカフェは社会変革の発端の場であったと知り、研究開始。帰国後、大学院で研究をすすめ『カフェから時代は創られる』を出版。その後、郊外のニュータウンでの孤独な子育て経験から、インフォーマル・パブリック・ライフの重要性に気づき、研究開始。現在は「カフェ的サードプレイス」「世界レベルの語学・教養」「もっと気軽に本物を」の3つのコンセプトで活動中。リュミエール代表。