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はじめまして農民美術 木片(こっぱ)人形・木彫・染織・刺繍

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はじめまして農民美術 木片(こっぱ)人形・木彫・染織・刺繍 / 監修・宮村真一、小笠原正(上田市立美術館) / グラフィック社


大正から昭和にかけた社会彫刻の記録


海外を旅していると、ある時は目抜通りの露天で、またある時はセカンドハンドショップの雑多な棚などに、その土地で生きる人をかたどった陶器や磁器、木彫りの小さな人形を見かけることが多いです。そしてそれらはその地域の産業などの特色を表現した所作などをモチーフに作られている印象です。旅先のちょっとした思い出に、そしてその土地に足を運んだという小さな証として手にしたことのある方もいるのではないでしょうか。


この本『はじめまして農民美術』は、信州・上田から端を発し洋画家・版画家の山本鼎が提唱した芸術運動の作品集となっています。山本鼎はヨーロッパでの留学からの帰路、ロシアの農村工芸品を目にして農民たちの自由闊達な表現やそのモチーフの素朴さなどに感銘を受けて、地元の上田に戻り地元の若者たちと一緒に農閑期の副業、農民たちの芸術活動への参加を目的としてスタートさせました。

この運動は大正から戦前までのわずかな時期のことでしたが、日本全国に広がり木彫りの代名詞でもある北海道の木彫りの熊などもこの農民美術の影響を深く受けているというから驚きです。

工芸品など専業で職人さんたちが作るものとは異なり、モチーフなども普段の生活や趣味を投影したものが多く、素朴で少し垢抜けないところもあるのですが、その点とても身近な美術表現になっていることが伺えます。作品の服装や道具を見ているとその当時の世俗などが伝わってくるようで生活文化の記録としてもとても貴重なものだということが分かります。


さて、旅先で見かけたちょっとした人をモチーフにした置物もそういった意味合いが込められていそうです。

そこで生きづく人たちが自らの手を使った自由な表現。

ドイツの現代美術家ヨーゼフ・ボイスの言葉を借りれば、それは社会彫刻。

彼ら、彼女たちが彫っていたのは木ではなく社会生活そのものだったのかもしれません。



<目次>

・戦前の主な農民美術生産組合(全国、長野)

・1章/木片人形その1(日本農美生産組合、信州の生産組合、大湯農美生産組合、木彫秋田風俗人形、大島農美生産組合…)

・2章/木片人形その2(登山人形、スキー人形、スケート人形、野球人形…)

・3章/木片人形その3(越路人形、凹平人形、塩原人形、吾妻木工組合…)

〈コラム〉松本の白樺工芸/彫刻家・木村五郎のこと/八雲熊彫の歴史/各地で作られた竹人形・4章/戦前の様々な農民美術とデザイン画(菓子入れ、木鉢、白樺巻、テーブルタッピー、クッション、ギニョール…)

・5章/山本鼎と農民美術「農民美術って何だろう?」

・6章/現代の農民美術 

・現代の農民美術 主な取り扱い店、戦前の農民美術を見ることができる施設紹介


監修/宮村真一(農民美術研究家)
1952年長野県生まれ。武蔵野美術大学卒、多摩美術大学大学院修了。農民美術の木片人形及び木彫風俗人形の分類をテーマに調査して30年。


監修/小笠原 正(上田市立美術館 学芸員)
1971年長野県生まれ。慶應義塾大学文学部卒。上田市立美術館にて山本鼎及び農民美術に関する調査を行う。同館「山本鼎のすべて展」(平成26年)、「農民美術・児童自由画100年展」(令和元年)などを手がける。

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