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ガラス

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ガラス / 著者・山野アンダーゾン陽子 / ブルーシープ



創るとはこういうこと



何かを誰かと一緒に作った経験は誰しもあるはずです。

小さい頃を振り返れば砂場で友達たちと砂のお城を作ってみたり、大人になれば意味があるようなないような会議を重ねて一つのプロジェクトを完遂させたりと、形の有無に限らず何かを生み出すことでこの世の中は動いています。


砂のお城だったらまだしも、たった一人でできることはとても限られていることでしょう。だから、誰かと手を取り合いながら進めていく方が、結果として想像できなかったことを創造できるチャンスでもある一方で、自分自身の固定観念などが打ち砕かれたりと、少し窮屈だったり、好ましく思わなかったりするものですが、振り返ると実はあの時のこの経験が今に生きているといったことも往々にして多いのです。


まあでも渦中にいる時は相手のことを訝しげに“曇りガラス”で見てしまうなんてこともあることでしょう。でも誰かと何かを一緒に行なうことは、言わば鏡の中の自分を覗き込んでいるようなもので、相手がいることによって自分の良い部分や悪い部分が如実に現れてくるように思うのです。


さて、本書『ガラス』はもちろん“曇りガラス”とは縁遠い美しいガラス作品を作っている北欧・スウェーデンで活躍しているガラス作家の山野アンダーソン陽子さんが「Glass Tableware in Still Life」というアートプロジェクトを振り返り辿った軌跡がまとめられた一冊です。


「Glass Tableware in Still Life」は、画家がリクエストした透明なガラス食器を作り、そのガラス食器を画家は静物画に描き、写真家が静物画とガラス食器を画家のアトリエで撮影したものを本に編むというプロジェクトです。


まず山野さんは、18名の画家に、「どんなガラス食器がほしいか(描きたいか)」を問いかけ、それを言葉だけで伝えてもらいます。
「焼きたてのシナモンロールやボロネーゼのパスタを食べる時にだけ使う、牛乳を飲むためのグラス」、「目を瞑って、辞書を開いて指が見つけた言葉」、「向こう側を見る『窓』としての器」など。
こういったようにそれぞれが思い思いの言葉を山野さんに投げかけます。その言葉を受け止め、イメージを広げ、その画家のためのガラス食器を山野さんは制作しました。そして画家はそれを静物画に描き、写真家が画家のアトリエでガラス食器と静物画を撮るというクリエーションが行ったり来たりといった感じで進め、最終的にその写真をデザイナーが1冊の本に編むのです。


日本とスウェーデン、ドイツを舞台に、18名の画家、写真家やグラフィックデザイナーなど、個性豊かなアーティストたちが登場し、ガラス食器をめぐる思考と対話を重ねこのアートプロジェクトは完成されていきますが行ったり来たりしている中でトラブルや不測の事態は避けられないもの。

構想から約5年。プロジェクトの紆余曲折を、中心で奮闘し続けた山野さんが自身の言葉で生き生きと綴った日記的エッセイですが、現地スウェーデンのアーティストたちとの一筋縄には行かないコミュニケーションの部分でのトラブルのシーンは読んでいるこちらもヒリヒリと肝を冷やすような正直な描写でいつの間にかこのプロジェクトの一員になっているかのような感覚になることでしょう。


でもきっと創るということはそういうことの積み重ねからなっているのでしょう。

良い部分も悪い部分もガラスのように全てが見えてしまうのです。


本書で描かれるプロジェクト「Glass Tableware in Still Life」から生まれた展覧会「ガラスの器と静物画 山野アンダーソン陽子と18人の画家」は2023年11月から広島市現代美術館で始まり、全国数カ所を巡回します。


ぜひこの一冊を読んで、美術館での展示を見に行けば、「うわぁ〜これがあれか!」となることは間違いなしです。



<目次>
ガラスのこと
本のこと1
画家のこと
二〇二二年夏 ヨーロッパ撮影
二〇二二年十二月 二度目のベルリン
本のこと2
二〇二三年初夏



山野アンダーソン陽子
スウェーデンのストックホルムを拠点に活動するガラス作家。日本の大学を卒業後、北欧最古のガラス工場であるコースタ内の学校で吹きガラスの手法を学び、その後スウェーデンの王立美術工芸デザイン大学(Konstfack)にて修士課程を修了。クリアーガラスを探求し、スウェーデン、イギリス、日本などで作品を展開する。2023-2024年、本書に綴られているアートプロジェクト「Glass Tableware in Still Life」の展覧会を、広島市現代美術館、東京オペラシティ アートギャラリー、熊本市現代美術館で開催。

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