たびたびの旅 / 著者・安西水丸 / 田畑書店
旅をしている時に絵やイラストがサラッと描けたらな、なんてことをたまに思う時があります。旅の思い出を残すのであれば写真も一つの手かもしれませんが、デジタル化(デジタル一眼やミラーレスカメラ)が進んだこともあり、撮れすぎてしまうという別の問題もあったりします。自分の心に残った情景を絵やイラストで残せると言うことはその一瞬を残せるという優れ技なのです。寸分違わずに描き残せばいいという訳ではありません。ちょっとぐらいデフォルメしていたってそれが自分の心に写った景色であれば問題ないものです。
さて、イラストレーターの故。安西水丸さんが旅をしながら書いた日記調の文章とその内容にまつわるイラストがまとめられています。1998年に出版された同書を再編集してまとめられているもので、旅をしている時期は1980年代から90年代といったところです。知った地名の部分に目を通してみると、いつの時代もそこに流れている空気感や街を代表するモニュメントなどの象徴はそこまでガラリと変わるものではないのだなということを感じられます。
帯にこんな言葉が載っていました。
『本の旅、本で旅』
ちょっと散歩に出たくなる一冊です。
<目次>
第1章 遠くの町に来ています
仙台より
オスロより
博多より
コペンハーゲンより
松本より
小樽より
ハイデルベルクより
長崎より
青函連絡船の中より
ペルーより
早春のオリーブ園より
第2章 夜の街に出てみました
石段下のバーで〔代官山〕
芝居のあとの、いい酒、いい肴〔下北沢〕
美女を並べて寿司を喰う〔青山三丁目〕
トゥデイズ・フィッシュに極上の日本酒〔南青山五丁目〕
歌は世に連れ、世は歌に連れ〔六本木〕
酒がよく、メニューを見る楽しさがある〔四谷〕
女用心棒Kと飲む夜〔渋谷二丁目〕
深夜の程よいざわめきのなかで〔南青山〕
銀座の路地と俳人のママ〔銀座一丁目〕
青山のスノー・ポイント〔青山三丁目〕
川を渡ってコーヒーを飲みに行く〔市川〕
究極の夜の果て〔千駄ヶ谷〕
雨の音と酒〔日比谷〕
ガード下で偲ぶ秋刀魚の味〔日比谷〕
深夜のカレー・パーティ〔麹町〕
ワサビと小鰭が好きだ〔青山〕
学生街での正統的飲み方〔江古田〕
白い花園の夜〔渋谷〕
ひどい目に遭った蟹座でAB型の男〔銀座〕
ふぐは本当においしいか〔池尻〕
第3章 旅のスケッチを描きました
ベンガラの町〔吹屋〕
雪の町、運河の町〔小樽〕
温泉と東南アジアの民芸〔河津〕
フクラギを食べに行く〔富山・氷見〕
東京から二時間のバリ島気分〔千倉〕
麦田町の隠れ味〔横浜〕
北アルプスと清流とワサビ〔安曇野〕
法善寺横丁を抜けて〔大阪〕
ハコフグを食べに西端の島へ〔五島列島〕
梁山泊に行く〔京都〕
奥伊豆の温泉郷〔伊豆大沢〕
水沢うどんと街道を歩く〔渋川〕
あとがき
安西水丸
1942年7月東京生まれ。日本大学芸術学部美術学科造形卒業。電通、ADAC(NYのデザイン・スタジオ)、平凡社でADを経てフリーのイラストレーターとなる。朝日広告賞、毎日広告賞、紀文おいしいイラスト展特選、1987年日本グラフィック展年間作家優秀賞、キネマ旬報読者賞受賞。東京イラストレーターズソサエティ、日本グラフィックデザイン協会、東京タイポディレクターズクラブ、日本文芸家協会、日本ペンクラブ、各会員。著書に『アマリリス』『手のひらのトークン』『荒れた海辺』『丘の上』『アトランタの案山子・アラバマのワニ』『スケッチブックの一人旅』『青山へかえる夜』などがある。2014年、歿。