民藝のみかた / 著者・ヒューゴー・ムンスターバーグ、柳宗悦、翻訳・田栗 美奈子 、監修・編集・朝倉 圭一
人間たるもの
1958年に出版されたこちらの『民藝のみかた』は東洋美術史家のヒューゴー・ムンスターバーグによるものです。それが現代で初の翻訳がなされ出版されました。というのも来年2025年は『民藝』という言葉が生まれて100年目を迎えるという節目の時期でもあるのです。
民衆の藝術として生まれた概念でもある『民藝』は藝術という言葉が現代に孕むアート性というものとは一線を画し、より民衆が持つ『技』や『術』といったものを形作ったものとしての概念の方がよりニュアンスとしては近く感じられるかと思います。つまり、その道具やものを、売ることを想定したものづくりではなく、生活の中で必要なものをより良く作っていった過程を含めた結果を意味するように思うのです。生活と地続きのものであるならば、その場所、場所の気候や風土、素材とする原材料など自ずと地域性が生まれ、多種多様なものが生まれてくるはずです。
私たちの生活は過去の時代よりもテクノロジーが発達し、瞬時に地球の裏側の人たちとコミュニケーションを取れてしまうような時代になりました。街に出れば国が異なったとて、ある程度均一化されてしまった都市空間に味気なさを感じ、気づくか気づかぬうちにこころの中にある種の虚無感を抱く、そんな場面も誰しもがあるはずです。その反面、情報網が整っていなかった時代にあったであろう、ものから作り手や環境などのその背景に思いを馳せ、想像してみるチカラ、つまり目に見えぬもの、可視化されていないものの輪郭をなぞっていくチカラはきっと以前に比べて衰えてしまった、そんな気さえしてきます。
本書は、日本の主要な民藝のあらゆる側面、特にその現状を知るための、よき入口を示してくれる。その内容は、民藝とは何かという初歩的な考察から、現在、日本で盛んになっている民藝運動についての説明まで、多岐にわたっている。読みやすく、よくまとまっているので、いつも手近に置いてすぐに参照できるし、図版の豊富さも多くの読者の興味を引くことであろう。著者はすでに東洋の芸術を扱った著作をいくつも発表しており、本書で取りあげるテーマを論じる資質を十分に備えている。――柳宗悦(「序文」より)
ぜひこの機会に私たちの先祖が普通に行なってきたことを本書を頼りに改めて振り返ってみてはいかがでしょうか。
<目次>
第1章 日本の民藝の精神
第2章 陶器
第3章 籠と関連製品
第4章 漆器、木器、金属器
第5章 玩具
第6章 織物
第7章 絵画と彫刻
第8章 農家の建物
第9章 現代の民藝運動
ヒューゴー・ムンスターバーグ
1916-95。東洋美術史家。ベルリンに生まれ、19歳でアメリカに移住。ハーバード大学で東洋美術を専攻し、著名な美術史家ラングドン・ウォーナー教授に学ぶ。ミシガン州立大学やウェルズリー大学で教えたのち、1952年に来日。国際基督教大学で4年にわたり教鞭をとるかたわら、湯浅八郎や柳宗悦との出会いを通して民藝を深く知るようになる。帰国後はニューヨーク州立大学ニュー・バルツ校に美術史科を設立して20年間勤務。日本と中国を中心としたアジア美術などに関する著作が多数ある。