FOG AND SUN / 写真・牛丸維人
写真によるオートエスノグラフィ
オートエスノグラフィーとは、自分自身を対象として、生活や経験の要素である他者との関連性、混乱、感情も含めて批判的に再考する質的研究の方法のこと。
本書は写真家・デザイン実践者の牛丸維人さんが映像人類学を学ぶために移り住んだデンマークでの2年間を記録した写真集。
滞在した2年間、どんな時でもカメラを手にし、呼吸をするように撮り続けたという写真はデンマークの美しい木々や光、学生寮での生活の様子が垣間見える部屋の家具や本や皿の上に佇む食事の数々、冬の夜の街並み、友人たちのポートレートなどが時系列に並んでいきます。
自分自身が対象となっているということは、個人的記録でもあるということ。
1枚1枚の写真を眺めながら、この時に作者は何を感じていたのか、この時の作者と風景、人との関係性はどんなものだったのかを想像しながら、追体験をするかのようにページをめくっていくと、だんだんと自分もデンマークの地を歩いている感覚が湧いてきます。
美しく柔らかな写真の1枚1枚を、一歩踏みこんで作者の感情やとりまく情景にまで想像を膨らませて眺めてみたい一冊です。
製作者の牛丸さんの綴るnote『写真集 『FOG AND SUN』 出版に寄せて』をご一読いただくとこちらの写真集の意味合いも、より深まります。
牛丸維人 / MASATO USHIMARU
KESIKI プロジェクトリード・ドキュメンタリー写真映像実践者. 2021年からAarhus University(Denmark)映像人類学修士プログラム(MSc in Visual Anthropology)に留学し、デンマーク第二の都市オーフスで過ごす。2022年には修士課程におけるプロジェクトとして北フィリピンで半年間を過ごし、高原都市における視覚障害当事者のケア実践と社会運動に焦点を当てたエスノグラフィ執筆と民族誌映像制作を経験. 制作された映画 "Our Co-Blind - An Ethnography of Care among Visually Impaired Communities in Baguio" は米国およびスペインで受賞・上映され、日本・デンマーク・フィリピンでは映像・写真作品の展示が行われた. 現在は日本・東京を拠点に映像人類学/デザイン/ビジネスの交差点に身を置き、リサーチから表現活動まで、写真と映像の幅広い応用方法を模索している.