フローラ逍遥 / 著者・澁澤龍彦 / 平凡社
美しき生命
ヨーロッパで買付をしている際に蚤の市やアンティークショップなどでよく見かけた植物の挿絵を描いた古い作品。植物が描かれている紙は端の方は折れていたり破れて欠けているもの、そして全体的に茶色く陽焼けしてしまっているものがほとんどだったように思います。その当時は陶器やガラスばかりに目がいっており、さほど気に留めることもなかったこれらの植物の挿絵でしたが、今頃になってなんで買付ておかなかったのだろうと、ちょっとした後悔をしています。花などの植物は同じようなものは一つもなく、その挿絵はその時の美しい瞬間という時間を絵の中に閉じこめているのだと今では感じているのですが、その当時はそこまで考えが及んでいなかったのでした。
本書『フローラ逍遥』は評論家の澁澤龍彦が25の花々を題材にとても美しい東西の植物画75点と合わせて書かれたショートエッセイ集です。博識高い澁澤氏の植物に対する切り口が秀逸なのですが、まず一目見て収録されている植物画の美しさに目を見張ることでしょう。また巻末には、植物愛好家の八坂安守が長年にわたって蒐集された貴重な内外の植物図譜もまとまっているので、この一冊で一つの植物を視覚的にそして知識的にも網羅できる内容となっています。
いや、それにしても植物の挿絵を買付ておくべきだったなと思わされてしまった一冊です。
植物好きはもちろん、そうじゃない方でも楽しめる一冊です。
<目次>
水仙―ナルキッソスの自家中毒
菫―ギリシアの花冠
ライラック―群がる星のように
牡丹―花妖のエロティシズム
薔薇―ペルシアの詩人なればこそ
紫陽花―オルタンスという女
向日葵―太陽を追って回転する花
クロッカス―美少年と球根
菊―心あてに折らばや折らむ
蘭―悪魔的なイメージ ほか
澁澤龍彦
1928‐87年。東京生まれ。本名龍雄。東大仏文科卒業後、マルキ・ド・サドの著作を日本に紹介するかたわら、人間精神や文明の暗黒面に光をあてる多彩なエッセイを発表。晩年は小説に独自の世界を拓いて、広く読まれた。