円相 7号 / 著者・小倉健太郎、佐々木晃也、高橋香苗 / 発行・DOORbooks
「自由」について考える
島根県松江市の本屋DOOR店主高橋佳苗さんと、農産加工品事業主の宮内舎・小倉健太郎さんの二人が、自分たちを取り巻いている世界について、自分の居る場所で見つめ考え、小説と随筆で表した冊子『円相』。毎号哲学的で自分の頭の中の思考と対話をするような内容が小説や随筆でまとめられています。
今号は2023年秋に刊行されたものですが、桜やフランボワーズ、フリージアと春の色合いが散りばめられていて、この春の時期に読むのもいいかもしれません。
小倉健太郎さんによる論考的エッセー「この人を見よ」では、新たな小さな家族の誕生によって、より「生」の本質を探るべく、中村哲の「生」を見つめています。
佐々木晃也さんによる哲学「スピノザ直観知についての試論 」では、スピノザ哲学の中での直観知とは?前号に続き紐解いています。極めて特殊な自己意識の経験たる直観知から「自由」はどのように規定されているのか。著者の具体例も含めてスピノザが論じた自由を考察していきます。
「多貴さんからの手紙」は、芦屋のパンの名店ベッカライビオビロート店主の妻であり接客を担当する松崎多貴さんからの手紙を掲載。
高橋香苗さんによる短編小説「フランボワーズ」「クープランを聴くひと」、エッセイ「幻のロールケーキ」「私の手帖 冬から春へ」。
そして写真・有田耕太郎さんと、挿絵・川上陽介さん。
『円相』を読み、執筆者の書く世界に浸る時間は、いつも私の日常の枠から外れてどこか遠い世界へと連れて行ってもらうような感覚になります。
それは執筆者それぞれの「生(死)」への透明なまなざしや世界を自分なりに捉えようとする真摯な姿勢が深みとなって文章から伝わってくるからだと感じています。
今号も初めて出会ったクープランというバロック時代のフランスの作曲家の曲を流しながら、じっくりと一冊を読み、日々の生活の中での自分の心の機微や現在地を振り返るような貴重な時間となりました。
せわしなく過ぎていく毎日に、「少し立ち止まって考えましょう」と句読点を打ってくれるような毎号の刊行が楽しみな冊子です。
目次
写真
この人を見よ
多貴さんの手紙
スピノザの直感知についての試論(2)
フランボワーズ
幻のロールケーキ
私の手帖 冬から春へ
川上陽介 絵画
クープランを聴くひと
佐々木晃也
北海道生まれ、京都在住。大学院で特にスピノザの哲学を研究しながら、複数の企業で哲学をすることを仕事としている。哲学者としての生ないしは哲学をする生というものに関心がある。
小倉健太郎
島根県雲南市在住。夫婦で宮内舎という農産加工品会社を営む傍ら、牛飼い手伝いや田畑にて食べ物をつくることに従事。二歳のワンパク息子と、非凡な妻に“存在”の不思議を突きつけられ、たじろぎながら暮らしている。美しいモノと、美しい風景、美しい女性が好きな水瓶座。
高橋佳苗
島根県松江市在住。2004年から自宅にて本屋 DOOR を開く。以降、本を中心に紙モノやクラフトの販売、作家、アートピースなどの展示のギャラリーを併設。2010 から「ひびきあうもの」と称したイベントを開催。2020年に自主刊行した「帰選」を機に小説を発表し始める。水瓶座。