円相 6 / 著者・佐々木晃也、小倉健太郎、高橋香苗 / DOOR books
言葉の中から浮かび上がってくるもの
島根県松江市の本屋DOOR店主高橋佳苗さんと、農産加工品事業主の宮内舎の小倉健太郎さんの二人が、自分たちを取り巻いている世界について、自分の居る場所で見つめ考え、小説と随筆で表した冊子『円相』。毎号哲学的で自分の頭の中の思考と対話をするような内容が小説や随筆でまとめられています。
今号はさらに17世紀のオランダの哲学者スピノザを研究されている佐々木晃也さんが加わり一層深みを増した内容となっています。
スピノザ哲学の研究者である佐々木晃也さんによる新連載「スピノザの直観知についての試論1」は、難解なスピノザ哲学を通して、スピリチュアルな事柄、見えない領域への厳密なアプローチ、解釈を提供します。
高橋佳苗さんの執筆されている小説では、特に年老いていく母と子の言葉なき言葉の掛け合いがとてもリアルに描かれており、自分はまだ子の立場でしか世界を知覚できていなかったのだということを考えさせられます。
そして小倉健太郎さんの『星を継ぐ』では、言葉を端緒に言葉によって示されること、そして同時に隠されることについて論考が展開されていきます。
執筆者同士が事前にすり合わせることをせずに、今、書けることを書いてまとめているようですが、何度も読み返してみると一つのぼんやりとした線が浮かび上がってきます。
さて自分の思考を省みるきっかけになる本書ですが、正直一度読んだだけでは理解できない部分もあるかもしれません。
けれど難しいことにしっかりと向き合って読み理解をしようと試みる行為は、たとえその内容の解釈が異なっていたとしても、そこから展開される自身の発想やひらめきは、その難しい内容が導き出してくれた結果なのだろうと思いました。
自分の居心地のいいテリトリーを少し離れてみるということは、ある種の思考の旅への出るきっかけになるのでしょう。
表紙の色は山陰の春先によく見える光るブルーグレーの夜空の色をバックにそこにヤドリギを引っ掻いたような線で描かれています。
ヤドリギは木が冬枯れになると見つけやすくなり、木の枝に種が付着してそこから発芽し成長する不思議なあり様から不死や再生の意味を持つそうです。
さあ、この一冊を読んで、あなたの心にはどんな言葉が浮かび上がってきましたか。
<目次>
スピノザの直観知についての試論
第三種認識を知る
短編小説1ほころびる
短編小説2松明をかかげて
短編小説3柔らかい腕
夜にプリンを焼く
道ゆく言葉 本の中から −柳宗悦「わたしの念願」より−
星を継ぐ
佐々木晃地
北海道生まれ、京都在住。大学院で特にスピノザの哲学を研究しながら、複数の企業で哲学をすることを仕事としている。哲学者としての生ないしは哲学をする生というものに関心がある。
小倉健太郎
島根県雲南市在住。夫〜で宮内舎という農産加工品会社を営む傍ら、牛飼い手伝いや田畑にて食べ物をつくることに従事。二歳のワンパク息子と、非凡な妻に“存在”の不思議を突きつけられ、たじろぎながら暮らしている。美しいモノと、美しい風景、美しい女性が好きな水瓶座。
高橋佳苗
島根県松江市在住。2004年から自宅にて本屋 DOOR を開く。以降、本を中心に紙モノやクラフトの販売、作家、アートピースなどの展示のギャラリーを併設。2010 から「ひびきあうもの」と称したイベントを開催。2020年に自主刊行した「帰選」を機に小説を発表し始める。水瓶座。