日本の自然をいただきます──山菜・海藻をさがす旅 / ウィニフレッド・バード著、上杉隼人訳 / 亜紀書房
日本各地の人と食の恵みを辿る民俗学的紀行エッセイ
上田に移住をしてから、春に山菜を頂く習慣ができました。
毎年ある時期になると近所のスーパーに地元産のたくさんの種類の山菜が並び始めるので、少しずつレシピを調べながら山菜料理を作ったり、知人の自宅の庭や、裏の林など自生している場所にも赴き、摘みたてをかごいっぱいに頂いたりと、自然と山菜に触れる機会に恵まれるようになったからです。
本書は、アメリカ人の新聞記者・翻訳者・ライターで日本在住時に各地の野草・海藻文化に触れた著者が、その時に出会った野草・海藻、それらの歴史や文化をよく知る人たちとの出会いや見聞きしたことを綴った民俗学的紀行エッセイで、私のように自生している姿を目にしたことがあったり、食卓に取り入れた経験がある方には、本書に登場する食材やストーリーの光景が目に浮かびやすいかもしれません。
山菜やトチノミ、タケノコ、ワカメなど、それぞれの食材を切り口にその土地特有の文化、民俗習俗、調理法、現在の社会課題など、深掘りして取材された内容には知的好奇心が満たされるばかり。
本書のデザインやレイアウトも見やすく、各章末にはレシピと巻末には「野草・海藻ガイド」が付いていたりと、難しい食文化の本、というわけではなく、誰にでも興味深く読めるような紀行エッセイとなっています。
もし、都市部で暮らし山菜や海藻をスーパーで売られているものしか見たことがない、という方が読めば、きっと異文化に感じられるかもしれません。
でも、間違いなく脈々と受け継がれてきた「日本古層の食べ物」ともいえるような日本の豊かな恵みであり、後世に残していきたい生きる遺産でもある。それがある人にとってはなんてことない身近な食材だとしても。
知ると見方ががらっと変わる―
まだ見ぬ原日本の食と人の暮らしに出会う旅、本書を読んで出かけてみませんか。
お住まいから近い地域も登場するかもしれません。
<目次>
第1章 道端の雑草、森の驚異 春の新緑
第2章 生命の木 トチノミの盛衰
第3章 饗宴と飢饉 ワラビの二面性
第4章 世界でいちばん背の高い草 天然物でもあり栽培物でもあるタケノコの物語
第5章 海の四季 海藻の消えゆく伝統
最終章 天然食物と共に生きてきたアイヌ
バード,ウィニフレッド
新聞記者、翻訳者、ライター。米国マサチューセッツ州・アマースト大学で政治学を学ぶ。2005年に来日し、英語教師、ジャーナリストとして活動。長野県松本市、三重県御浜町など地方都市で暮らしながら全国各地へ足を運び、広く日本の野草や海藻文化に触れる。環境問題、科学、建築などに関する記事をThe Japan Times、Kyoto Journal、San Francisco Public Press、Pacific Standard、NPRなどに寄稿。精力的に執筆、翻訳活動を続けている
上杉隼人
翻訳者(英日、日英)、編集者、英文ライター・インタビュアー、英語・翻訳講師。早稲田大学教育学部英語英文学科卒業、同専攻科(現大学院の前身)修了