てん / 著者・栗田脩 / してきなしごと
日々の唄
毎年恒例となっている栗田脩さんによる詩の朗読会。この会を開催するまでは、自分自身、詩というものにはほとんど馴染みがなく、何を言いたいのか起承転結が曖昧な文字の羅列くらいにしか感じられていなかった。実際に詩の朗読会がスタートするまでは、その良さを知る由もなかった。
詩はやっぱり声に出して朗読することが大切なのだと、栗田さんは毎回詩の朗読会でそう語るけれど、やっぱりそうなのだと詩を音で聞いてみると感じる。音読なんて小学生かよ、と言いたくなる気持ちも分からないでもないけれど、一度騙されたと思って声に出して音読してみて欲しい。そうするとその響きや自分の声に乗って詩で描かれている世界の景色が広がっていくはずだ。
そうしたこともあって栗田さんの詩はどれも平仮名で描かれている。その意図としては字面から広がる世界というよりも、音を通して広がっていく世界を感じて欲しいということだった。音で見せてくれる栗田さんの詩の世界は、どことなく世の中には光と影が存在していることを嘘偽りなく指し示してくれている。けれどそこで浮かび上がった影も決してネガティブなことではなく、愛すべき対象のすべてであるということを気づかせてくれることだろう。
本書タイトルになっている『てん』という詩。朗読会でも先日収録したポッドキャスト『面影飛行』でも聞かせてくれた。一度目は過去からのベクトルで、二度目は未来からのベクトルで。面白いことに聞くたびに毎回異なる印象を感じ取ることができるのだ。印象が固定化されていない作品は、受け手の状態によって何度も味わえる無限の可能性を秘めている。詩は私たちの一番馴染みのある方法でもある言葉を用いて、そんな可能性をひらいてくれている。
声に出して読んでみて欲しい。
栗田さんが掬い上げた日々の世界は、あなたの日々にも折り重なり、そしてひらかれていくだろう。
※栗田脩さんをゲストにお迎えしたポッドキャスト『面影飛行』を合わせて聞いていただけると、栗田さんの考えている世界観と一緒に楽しむことができます。
<目次>
あらしのよる / しらが / ほくろ / ひ / へ / なまえ / できごと / ゆめのはなし / にっき / ゆうかんなこや / ともだち / ぴあの / せん / おばけ / ふるえている / そのひ / けいさつかん / ばっと / さんぽ / おんがく / れもんぐらす / やきゅうじょうはちょうまんいん / きしべ / さきゅう / てぶくろ / おもいつき / てん / みみず / となりのにわ / せんとう / あいだ / ねがい / おむかえ / どこふくかぜ / てをあらいなさい / そうやっていきてきた(全36編)
時代の雪原へ ウチダゴウ
あとがき 栗田脩
装画・装丁:ウチダゴウ
発行:してきなしごと
2025年4月1日発行
サイズ W135mm×H210mm
無線綴じ / 本文124P
栗田脩
1989年生まれ、うお座。長野県上田市在住。2018年から「してきなしごと」の詩の教室に通い始め、2020年に第一詩集「歯」(してきなしごと)を刊行。県内を中心に朗読会を開催。2024年末に教室を卒業し、詩の執筆を続けている。