どっちつかずのものつくり / 著者・安藤雅信 / 河出書房新社
陶作家でありギャラリストの安藤雅信さんのエッセイ&対談がまとめられた一冊です。いつの時代もよくある議論として「工芸と美術」、「東洋と西洋」という二項対立の軸。著者の安藤さんは、冒頭の『はじめに』でその壁を突破した糸口として東洋的な『餡』と西洋的な『パン』が調和し融合した『あんぱん』を例に語りがスタートしていきます。
本書の帯にも書かれている
「工芸の外からの目線が入った仕事を自分の中で消化できた時、僕のつくる器は水を得た魚のように変わり始めた。」
と本人が語っているように、この二項対立の壁を突破できる時に何か新たなものが生まれていくのだろうと、そんな気分にさせてくれます。
けれどこうして言葉で書くほど現実は容易なものではありません。特に作陶などの表現者でもある安藤さんだからこそ感じている既存の枠組みや価値観に抗い葛藤してきた心から語られる素朴な疑問などが綴られています。
巻末には、古道具坂田の坂田和實さん、現代アーティストの村上隆さん、音楽家の大友良英さん、ミナペルホネンの皆川明さんといった他ジャンルに跨り活躍される方々との対談はとても引き込まれるものです。
暮らしていく中で目には見えない“壁”を感じている方は本質的な部分で共感することが多い一冊かと思います。
目次
はじめに
1、どっちつかずのものつくり
どっちつかずの始まり/幹を見極める/実用工芸と現代美術/現代美術と茶道/トンネルの中で/ひと手間余分/美術的アプローチの工芸/我が家の習慣/オランダ白釉陶器との出会い/ものと空間/オランダ皿の誕生/生活工芸の始まり/写しと個性/白への想い/工芸と工業/お茶の時間/生活提案とは何か?/機能考―融通無碍/機能考―感覚的機能/前半生と後半生/繫げていく 繫がっていく/正直な仕事
2、僕が愛玩するもの
柳茶碗/手板とリンゴ箱/おろし皿
3、周辺から中心への対話
坂田和實&安藤雅信「基準のない美しさ」
工芸と美術を繫ぐ ――坂田和實さんとの対談を終えて
村上隆&安藤雅信「現代美術↔陶芸」
鎖国は解けたか? ――村上隆さんとの対談を終えて
大友良英&安藤雅信「あまちゃんからノイズの向こうまで」
ノイズ談義 ――大友良英さんとの対談を終えて
皆川明&安藤雅信「共感のものつくり」
喜びの回生 ――皆川明さんとの対談を終えて
おわりに
安藤 雅信
1957年多治見市生まれ。ギャルリ百草主宰。陶作家。武蔵野美術大学彫刻学科卒。現代美術作家として活動した後、焼物制作を生業に。和洋問わず使用できる日常食器の定番を千種類以上制作しつつ、茶道具、彫刻的作品も制作する。