デレク・ジャーマンの庭 / 著者・デレク・ジャーマン / 創元社
地上の楽園
よく天国を想像した映像などで使われることの多い、お花畑が一面に広がるイメージがあります。けれど実際にそういった一面がお花畑の場所に行ったとしても、ああ花がいっぱいあるなという感じで終わってしまったりすることがあります。
かたや原野を開墾して、さてこれからどんな庭にしていこうかと想像を巡らせ創造しているガーデナーの庭(この場合は敷地)の方が不思議とワクワクしてくるのです。
両者の違いは何かというと、現実か想像の違いで、実は完成された現実よりも、不確かで心許ない現実を人間の想像のチカラで考えている方が実はワクワクしてしまうのかもしれません。何もない場所から自分自身の想像を創造できる喜びこそ、人間が持つ最大の感情表現なのかもしれませんね。
さて、本書『デレク・ジャーマンの庭』はそんな天国というよりは地獄だと思うような環境につくられた庭の話。「楽園は庭にあらわれる。」と言葉を残した映像作家のディレク・ジャーマン。
晩年にイギリス南東部の最果ての岬で、原子力発電所に程近いダンジネスという荒廃地に移り住み庭がどのように変転していったかについてまとめた記録の一冊になっています。友人で写真家のハワード・スーリーによって撮影された150枚以上の写真は、庭のさまざまな段階とそれぞれの季節をよく捉えています。
散歩をし、草むしりをし、水をやり、そんな些細な日常の中でただ生きることを楽しんだデレク・ジャーマン。彼の頭の中には地上の楽園が広がっていたに違いないと思わせてくれる一冊です。
30年ぶりに復刊した本書ですが、デレク・ジャーマンのファンだけでなく、自ら庭をつくる実践者、いや想像(創造)者に手に取ってもらいたい一冊です。
デレク・ジャーマン
1942年ロンドン生まれ。画家、舞台美術家、映像作家。1960年代にはフレデリック・アシュトンと担当した『ジャズ・カレンダー』(1968)やケン・ラッセルと担当した『ザ・レイクス・プログレス』を含む舞台のセットと衣装デザインをおこなう。映像媒体での作品は70年代から90年代にわたる。この期間に『ジュビリー』(1977)、『カラヴァッジョ』(1986)、『ザ・ガーデン』(1990)、『ブルー』(1993)などの映画を制作した。著書に『ダンシング・レッジ』(1984)、『デレク・ジャーマンのカラヴァッジョ』(1986)、『ザ・ラスト・オブ・イングランド』(1987)のほか 、自伝的な『モダン・ネイチャー』(1991)がある。1994年エイズ合併症により逝去。