絵本のなかへ帰る 完全版 / 著者・髙村志保 / 夏葉社
記憶への鍵
先日ほぼ20数年ぶりに祖父母の家を訪ねてきました。
数年前に信州・上田に移住をしてきたのだから、足を伸ばせばいつでも家の様子を見にいくことだってできたし、ましてやオモカゲファームのある場所から祖父母の家は目と鼻の先くらいの距離なのに、なかなかそんな気になれずにいました。
幼い頃の夏を過ごし従姉妹や姉と遊び、青い三輪車を我が物顔で乗り回していたあの庭や家の周りの田畑の畦道の勾配など、記憶の中のそれは広くそして急な坂だったはずが、大人になった今実際にこの目で見てみるととても狭く感じそして全てが小さくなっていました。そして祖母や午睡できない自分に内緒でくれた桃の木は刈り取られ、門構えのようにあった松の木はその命を終えて朽ちているのを見て時の流れを感じるのです。そして何気ない木や石、そして風を感じることで当時の記憶の断片がパズルのように組み合わさっていくのが懐かしさと少し歯痒い気持ちにさせてくれるのでした。
本書『絵本のなかへ帰る 完全版』も、長野県茅野市の老舗本屋「今井書店」の店主・高村志保さんの幼少期の記憶と結びつく絵本という切り口でエッセイとしてまとめられています。きっと淡くカタチのない幼い頃の記憶が、絵本という確かなカタチのモノを通して甦ってくる感じがとても心地の良い本だなと感じます。
きっとこの一冊を読み進めていると、ご自身の幼少期の断片が浮かび上がってくることでしょう。そんな時は是非その断片を大切にこころの中でしまっておいてくださいね。
夏の夕暮れ、ひぐらしの鳴く頃にじっくりと味わいたい一冊です。
<目次>
『おやすみなさいフランシス』
『ちいさなうさこちゃん』
『こねこのぴっち』
『ジェインのもうふ』
『ボタンのくに』
『たまのりひめ』
『ラチとらいおん』
『ハイジ』
『おおきなかぶ』
『かさもっておむかえ』
『とべ!ちいさいプロペラき』
『グリムの昔話3』
『子うさぎましろの話』
『ないた あかおに』
『くろうまブランキー』
『ぐるんぱのようちえん』
『きつねにょうぼう』
『よあけ』
『つるにょうぼう』
『きょだいな きょだいな』
『せなか町から、ずっと』
『てぶくろ』
『いたずらきかんしゃちゅうちゅう』
『プンク マインチャ』
『山からきた ふたご スマントリとスコスロノ』
『いちごばたけのちいさなおばあさん』
『とうだい』