デザインのめざめ / 著者・原研哉 / 河出文庫
空という静謐
『対象をじっと見つめる眼差しを感じる。』
この一冊を読んでみて頭に浮かんだ感想です。
本書は日本を代表するグラフィックデザイナーの原研哉さんが日常のなかのふとした瞬間に潜む「デザインという考え方」をていねいに綴られています。
読み進めていくと私たちが日常的に感じている『デザイン』が対象物の造形という一つの視点だけで留まってたことを痛感させられるはずです。文体も「どうだ、これがデザインだ!」というような形でなく、「ほら、こんなところにもデザインという視点があるのだよ」と読者の伴走相手のような眼差しで語られています。
解説を担当している独立研究者の森田真生さんの言葉を引用すれば、原さんの言葉には風景があり、それは両手をそっと合わせて作った「空/エンプティネス」に何かが響くのをそっと観察しているような静謐さを纏う文体だという言葉がとてもしっくりきます。そしてその「空」の中で交わる主観と客観が交雑するあわいの感覚がデザインそのものなのだと理解しました。
デザインはモノに働きかけるものではなく、人の心に働きかけるもので、人の行動に寄与するあらゆるもの。
原さんの視点で世の中を眺めてみると、感受する感覚が養われ、気づく喜びとわかる実感に満たされそうな一冊です。
<目次>
表面張力の美学
消え去った映像
エレガントなハエ
マカロニの穴のなぞ
手のひらの装丁
「紙メール」の優雅
ミイラとリサイクル
コンコルドと新幹線
都市と風呂の未来
「割れしいたけ」の実力
原研哉
1958年生まれ。デザイナー。日本デザインセンター代表取締役社長。武蔵野美術大学教授。世界各地を巡回し、広く影響を与えた「RE-DESIGN—日常の21世紀」をはじめ、「JAPAN CAR—飽和した世界のためのデザイン」、「HOUSE VISION」など既存の価値観を更新する展覧会を内外で多数展開している。
長野オリンピックの開・閉会式プログラムや愛知万博では、日本文化に深く根ざしたデザインを実践。2002年より無印良品のアートディレクターを務め、松屋銀座、森ビル、蔦屋書店、GINZA SIX、ミキモト、ヤマト運輸、中国ののVIデザインなど、活動は領域を問わない。2008—09年に北京、上海で大規模な個展を開催。2016年にミラノ・トリエンナーレで、アンドレア・ブランツィと「新・先史時代—一〇〇の動詞」展を開催し、人類史を道具と欲望の共進化として提示した。
また、外務省「JAPAN HOUSE」では総合プロデューサーを務め、日本文化を未来資源とする仕事に注力する。2019年にウェブサイト「低空飛行—High Resolution Tour」を立ち上げ、独自の視点から日本紹介をはじめ、観光分野に新次元のアプローチを試みる。『デザインのデザイン』(岩波書店、2003年)、『DESIGNING DESIGN』(Lars Muller Publishers, 2007)、『白』(中央公論新社、2008年)、『日本のデザイン』(岩波新書、2011年)、『白百』(中央公論新社、2018年)など著書多数。