無目的: 行き当たりばったりの思想 / 著者・トム・ルッツ、翻訳・田畑暁生 / 青土社
愛情を傾ける
子どもをよく観察していると、論理では説明がつかないような突飛な行動をすることがあります。おべんとうばこのうたを歌っていたかと思うと途中から歌詞がやきいもグーチーパーに変わったりもするのです。人気アイドルでもそんなメドレーはしないだろうと思うような差し込み方が本当に笑えてくるのです。そこには確かな目的というものは存在せず、ただそこにあるものを愛しむ行為のように感じるのです。
私たちは大人になるにつれ、何かを大切に思うこと、何かに没頭することをしばし忘れがちになってしまいます。何か行動をする時には、目標や目的というものに結び付けられ、計画的に何かをすることが善しとされる現代社会は一歩引いて考えて見た時に少し疑問が浮かぶはずです。これからの時代は、ひとたび没頭する何かを見つけ、無目的に時間を忘れただひたすらにその対象と向き合うということが大切になってくるのだと思います。そしてそうした時間を過ごした後に気がつくのです。これが何かに対する愛情だったということを。
さて、本書『無目的:行き当たりばったりの思想』には、エッセイ調であらゆる角度から無目的について論じられています。
現代の社会では、目的を持たないことは批判的に捉えられがちですが、過去においては多くの宗教家、哲学者、芸術家が目的を持たない状態に価値を見出していました。著者・トム・ルッツは「無目的」を人間の基本的な性癖と考え、それを創造性の源としたり、効率的な思考や生産性の要求に対抗できるものとして、積極的に擁護していきます。短い文章で構成されどこからでも気軽に読める本書は、無目的に読み進めることで予期していなかったどこかに私たちを導くことでしょう。
無目的はわたしたちを自由にする。
是非、無目的に愛情を傾けてみてください。
<目次>
無目的性とは 序
無目的性と文学1 エッセイ
無目的性と文学2 詩
無目的性とコラージュ1 制御不能
無目的性とノマド1 ドゥルーズとガタリ
無目的性と方法1 定義と免責
無目的性とノマド2 リオタールとチンギス・ハン
無目的性とコラージュ2 トカルチュク、ニーチェ、モリス
無目的性とコラージュ3 エンサイクロペディア
無目的性と旅1 地平線
無目的性と怠惰1 ニーチェ、アドルノ、怠け仕事
無目的性と生命1 ドラッグと自己懐疑
無目的性と文学3 小説
無目的性と旅2 悪い道
無目的性と死
無目的性と生命2 親密性
無目的性と方法2 ガートルード・スタイン、ジャン・ツヴィッキー、老子
無目的性と生命3 段階
無目的性と旅3 意図
無目的性と怠惰2 ワーカホリック主義
無目的性と注目1 意識の流れ
無目的性とノマド3 車とテノール
無目的性と注目2 卓越性
無目的性と怠惰3 焦り
無目的性と方法3 終わり
無目的性と注目3 そして
ルッツ・トム
カリフォルニア大学リバーサイド校の特別教授兼クリエイティブ・ライティング学科長、Los Angeles Review of Booksの創刊編集長