青いパステル画の男 / 著者・アントワーヌ・ローラン、訳・吉田洋之 / 新潮クレスト・ブックス
もしも別の人生を生きられるとしたら。
物語の舞台はパリ九区。法律事務所の弁護士であり幼い頃伯父さんの影響を受けて”オブジェ”のコレクターでもあったピエール=フランソワ・ショーモンがこの物語の主人公です。彼は日常的に通っていたオークションハウス・ドゥルオーで自分にそっくりな18世紀の肖像画に出会い、一世一代の大勝負でこの肖像画を落札します。この絵画がきっかけとなり数奇な人生の扉が開かれていく物語です。
著者は、『ミッテランの帽子』や『赤いモレスキンの女』を書いたアントワーヌ・ローランで、本作『青いパステル画の男』は彼の処女作にあたります。
コレクター心理や骨董品のディテールの描写、オークションハウスの空気感など、アントワーヌ・ローラン自身がパリの骨董屋で働いていた経験や感覚がリアルに描かれている印象です。
物語の中に出てくるコレクターの“先輩”にもあたる伯父さんの「本物のオブジェは、持っていた人の記憶を抱えている」という言葉。そしてその言葉を受け主人公のショーモンが「古いものには、魂がある」と看破した部分は、古いものをコレクションしている方は特に頷ける感覚かと思います。そしてこうした本質を見極めていく審美眼が街で生活している人々の中から溢れ滲み出ている感じやその空気感がパリという街を作り上げていっているのだろうなと感じられます。
さて、このショーモン最終的にはどうなったのでしょうか。
大人のためのおとぎ話の扉は開かれていますよ。
<短評>
▼Aoyagi Ryota 青柳龍太
骨董のコレクションほど、それに興味がない人間にとって奇妙で不可解な物はないだろう。夫であるコレクターが熱中すればするほどに、コレクションは、その妻との間に、理解し合えぬ見知らぬ他人としてのお互いの姿を浮き彫りにする。弁護士であるショーモンがパリのオークションハウスで見つけた自身とそっくりな18世紀の肖像画をきっかけに、ショーモンは、また妻であるシャルロットは、それぞれにどのような自分自身の正体を曝け出す事になるのか。読み終えた時に、愛蔵する一品を眺め、己の姿を確認したくなる一冊です。
▼Reader's Digest リーダーズ・ダイジェスト誌
コーンウォール公爵夫人(現在の英王妃カミラ)をして、「完璧なパリの傑作」と言わしめた『赤いモレスキンの女』の著者による、アイデンティティの入れ替わりが引き起こすチャーミングなストーリー。巧妙かつ雄弁、静謐にして笑いを誘い、一貫して自意識過剰な男の物語。アントワーヌ・ローランのデビュー作は悦びに満ちた小説である。
▼Library Journal ライブラリー・ジャーナル
ローランの他の作品の読者も美味しく味わうことができる、愉しみに満ちた文学のスフレのようだ。
▼Riveting Reviews リベッティング・レビュー
この作家は一人称を用いて、現実の自分からの離脱を試みるまでは自分自身の不幸の深さに気づけなかった人物を創り出すことに成功している。
アントワーヌ・ローラン
1972年パリ生まれ。大学で映画を専攻後、シナリオを書きながら短編映画を撮り、パリの骨董品屋で働く。『青いパステル画の男』で作家デビューし、ドゥルオー賞を受賞。『煙と死』『ノスタルジーの交差点』に続く『ミッテランの帽子』でランデルノー賞、ルレ・デ・ヴォワイヤジュール賞を受賞、世界的に注目を集めた。次作の『赤いモレスキンの女』も20ヵ国以上で翻訳され、ドイツ語版はベストセラーとなり、イタリア語版でジュゼッペ・アチェルビ賞を受賞した。
吉田洋之
1973年東京生まれ。パリ第3大学学士・修士課程修了、同大学博士課程中退。フランス近現代文学専攻。訳書にアントワーヌ・ローラン『ミッテランの帽子』『赤いモレスキンの女』、エリック・フォトリノ『光の子供』がある。