365 僕のたべもの日記 / 著者・麻生要一郎 / 光文社
今ここの味の記憶
昨日の朝何食べた?なんて唐突に聞かれたものなら、直ぐに答えられなくなってきています。それが一昨日、先一昨日まで遡れば、果たして自分はご飯を食べたのだろうかと疑ってしまうほど、記憶というのは過ぎ去ってしまうものです。でもしっかりと食べているのです。そうした食べた記憶というのは薄らいでいくものですが、大切なことは毎食毎食、こころを込めて作ってくれている人がそこにはいるという存在を決して忘れてはなりません。一人暮らしをしている人であれば毎日毎食、今日は何を食べようか、どんな食材を買わなければいけないのだろうかと頭の片隅で常に考えていることでしょう。だから、やっぱり食べたものは、感謝と共に記憶として留めておいて欲しいものなのです。
さて、本書『365 僕のたべもの日記』は、料理人・麻生要一郎さんが普段の『おうちごはん』を写真一枚、時々複数枚とちょっとした日記が365ページ(1日1ページ)にまとめられた一冊です。
美味しそうな食卓の写真とエッセイがつらつらと掲載されているだけなのですが、こうしたなんの変哲もない日常がしっかりと続いていくことが幸せなのだなと感じさせてくれる一冊です。
今ここの味の記憶、感謝と共に留めておきたいものです。
おうちごはんのよいところは、
味つけしなくたっていいという点にある(1月27日)
集中力に欠けているから美味しくできなかった。
そんな日もある、それも家庭の味だ(3月15日)
カレーと焼き魚ってなかなか変な組み合わせだけれど、
じつはインドでもこういう献立、
あるんじゃないかとひそかに思っている(4月22日)
刺身は吟味するのが肝心で、あとは切れば完成(8月21日)
夜はサンマの塩焼き。
なんだか、やせたサンマだったな(9月23日)
帰宅すると、チョビが甘い声で鳴いていた。
待たせてごめん、家で食べたらよかったね(10月19日)
冷蔵庫の中の、早く食べねばと気がかりなものが消化されると、
気持ちもすっきりする。
何事もため込むのはよくない、という教え(11月5日)
母と最後に出かけた店は、この虎屋菓寮だった。
とても親切にしてくれた、思い出の場所(11月12日)
パンとしてはイマイチでも、パン粉としては優秀、
みたいな現象もおもしろい(12月16日)
麻生要一郎
茨城県出身。建設会社の3代目として働いたのち、知人に誘われ新島で宿を始める。これを機に料理人の道へ。その後、不思議な縁に導かれて高齢姉妹の養子となる。愛猫・チョビとともに居を東京に移し、ケータリング弁当の仕事を始めると、家庭的な味わいで人気を集める。2020年には初の著書『僕の献立 本日もお疲れ様でした』、’22年には『僕のいたわり飯』(ともに光文社)を出版。現在、雑誌やウェブなど多くの媒体で執筆をしている