mitosaya薬草園蒸留所で作る13のこと / 著者・江口宏志、山本祐布子 / KADOKAWA
ブリコラージュの足跡
何かを行う時に全てその場所がセッティングされお膳立てされている状態と、キャンプ場の如く全てその使用者に委ねられている状態、果たしてどちらが良いのだろうか。そんなことはその時の自分自身の状態や価値観、特にこころの余裕次第なところもあるのだろうが、これからの時代はあるもので何とかやっていくしかない、その中で自分自身の楽しみを見出していくことに長けている人たちが生きやすい世の中なのだろうと昨今の世情を鑑みて思う。
後者は0から1を生み出していくわけだからそれ相応に大変なこと、特に肉体面においては一定の労働は避けられない。だが、肉体を酷使してでしか理解し得ないこともあるのではないだろうか。それはつまり精神性としての理解や成長といったところだろう。その中でいの一番に考え方の枠組みを一新する必要も出てくるはずだ。つまり目標から逆算して今やることを決めるといういわゆるホワイトカラー的な考えから、ここにあるもので何ができるのかというブリコラージュ的な考えになるということ。そしてそちらのブリコラージュの考え方の枠組みを得られれば、自分の身の回りがこんなにも豊かなものたちに囲まれているということに気が付くのだろう。
さて、こんなブリコラージュの考えの足跡を辿れるのが本書『mitosaya薬草園蒸留所で作る13のこと』だ。40代半ばでその界隈では知らない人はいないであろう個性派書店『ユトレヒト』の元代表の江口宏志さんと妻でイラストレーターの山本祐布子さんが、6年間かけて畑違いの仕事に移行し、mitosayaという薬草園蒸留所を立ち上げた軌跡を13のカテゴリーで振り返っていくこの一冊。
過酷な状況の中、唯一自分たちを支えてくれていたことは「自分の手で作ること」だったそう。過剰なサービスからは距離を置き、自ら選び取って価値を見出すことの大事さに読み進めていくと気が付くことだろう。
そして本書を読み終えたら、自分の身の回りや自分の置かれている状況をもう一度見つめ直してみて欲しい。有り余る物事に囲まれていることに気が付くはずだ。
一歩踏みだすことに背中を押してくれる一冊。
<目次>
1 蒸留酒を造る
2 庭を作る
3 居心地を作る
4 住まいを作る
5 料理を作る
6 仕事・家族・人生を作る
7 お茶を作る
8 動物との暮らしを作る
9 ブーケを作る
10 特別なものを作る
11 友達を/と作る
12 時間を作る
13 循環を作る
江口 宏志
書店経営等を経て蒸留家の道へ。南ドイツの蒸留所で蒸留技術を学んだのち、日本の優れた果樹や植物から蒸留酒を作る、 mitosaya薬草園蒸留所を千葉県大多喜町に設立。「自然からの小さな発見を形にする」をモットーに、これまでに約160種の蒸留酒、季節の恵みを閉じ込めた加工品などをリリースしている。2023年5月、ノンアルコール飲料の製造・充填を行う都市型のボトリング工場「CAN-PANY」を東京都江東区にオープン。
山本 祐布子
1977年、東京生まれ東京育ち。京都精華大学テキスタイル学科卒業後、イラストレーターとして活動。雑誌や広告、プロダクトデザインのディレクションなどさまざまな業務に携わる。2017年、千葉県夷隅郡大多喜町に移住。夫(江口宏志)と共に「mitosaya 薬草園蒸留所」の代表取締役として運営に関わる。ノンアルコール部門であるお茶やシロップの生産、来客にむけた料理などを担当。2児の母。犬、猫、鶏の世話もする忙しい日々。