サーミランドの宮沢賢治 / 著者・管啓次郎、小島敬太 / 白水社
北にはなにがある?
朗読劇『銀河鉄道の夜』の活動を東日本大震災後から続けてきた詩人の管啓次郎さんと音楽家の小島敬太さん。
ある時、フィンランド叙事詩「カレワラ」で描かれる「北」について語っていた二人。
その物語からは、「北」は南部と明確に区別された場所、光の当たらない闇=未開で野蛮な地、という印象を受けた、という小島さんは、今度は宮沢賢治の作品と「北」を引き合わせる。
北、鉄道、生と死は賢治の作品では何度も登場する。
銀河の星をめぐり、熊たちに導かれ、北へ、北へ、目指す賢治ー
賢治が考えた「北」にはなにがあるのか、
「文明社会」「中心」から離れた北の果てで一体何を感じるのか。
そんな個人的な問いを発端として計画された旅。
行き先はフィンランドの北、サーミの人々が暮らす地サーミランド。
小島さん目線の風篇、管さん目線の太陽篇、同じ時間軸で二人がどう感じ、記しているか、読み比べられるのも嬉しい。
旅の行く先々で出会う人、動物、自然、言葉の描写を思い辿っていくと、すでに思考は日本から離れ、真っ白な景色が広がるサーミランドの吹雪の風を浴びているかのような心地になる。
北の果てでも、どこでも、自分の足で訪れて、そこで感じることを体に沁み込ませてこそ血肉になるのだ、と思わされた二人の旅人の文章。
小島さん、管さんそれぞれの豊かな感覚知による刺激的な文章を存分に浴びることのできる贅沢な一冊なのでしっかりと時間をとって、潜るように読みたい。
<目次>
風 篇――小島敬太
氷河鼠のフェイクファー/四号線を北に行け/陰気な郵便脚夫/星めぐりの歌/ヌオルガムの樺の木/時計の音/ロマンチックの終着駅/イナリ湖の上で/ロヴァニエミのトナカイレース
太陽 篇――管啓次郎
太陽と風の土地へ
なぜ北にむかうのか/ロヴァニエミへ/湖畔の村、イナリ/なぜかノワールなマイクロバスでウツヨキへ/雪歩き、橇遊び/となかいとは何か?/雪原を歩く賢治の霊?/夜の味噌汁対話/狩人の土地として/世界のもうひとつの頂点/ヨイクとは何か/となかいディナーへの招待/旅と追憶、追悼/さようなら、知らない犬たち/道が見つかったらそれがそれだ、迷うな、そこを行け
アントロポセンブルース――あとがきに代えて 小島敬太
ぼく、ザウエルは――あとがきに代えて 管啓次郎
管 啓次郎
1958年生まれ。詩人、比較文学研究者。明治大学理工学部および同大学院〈総合芸術系〉教授。2011年から、古川日出男・柴田元幸・小島ケイタニーラブとともに朗読劇「銀河鉄道の夜」の活動を始める。2022年、同朗読劇が宮沢賢治賞奨励賞を受賞。
2011年、『斜線の旅』で読売文学賞受賞。著書は他に『コロンブスの犬』『コヨーテ読書』『オムニフォン』『本は読めないものだから心配するな』『ストレンジオグラフィ』『エレメンタル 批評文集』『本と貝殻』『ヘテロトピア集』など。詩集に『Agend'Ars』『数と夕方』『犬探し/犬のパピルス』『PARADISE TEMPLE』『一週間、その他の小さな旅』など。訳書に、ル・クレジオ『ラガ 見えない大陸への接近』、サン₌テグジュペリ『星の王子さま』、エドゥアール・グリッサン『第四世紀』など多数。
小島 敬太
1980年生まれ。音楽家・作家・翻訳家。早稲田大学第一文学部卒業。シンガーソングライター「小島ケイタニーラブ」として、NHKみんなのうた「毛布の日」などを制作。2011年から古川日出男・柴田元幸・管啓次郎とともに朗読劇「銀河鉄道の夜」の活動を始め、出演および音楽監督を務める。2022年、同朗読劇が宮沢賢治賞奨励賞を受賞。
著書に『こちら、苦手レスキューQQQ!』(絵・木下ようすけ)、共著に『花冠日乗』など。訳書に『中国・アメリカ 謎SF』(柴田元幸との共編訳)、中国の児童文学『紫禁城の秘密のともだち』シリーズ(作・常怡、絵・おきたもも)がある。
東京新聞・中日新聞の書評コーナー〈海外文学の森へ〉、K-MIX(静岡エフエム)のラジオ番組〈魔法の国の児童文学〉を担当。