鏡に映る世界

 

「鏡のような存在になりたいね。」

お正月早々、昨年末にオープンしたショップ「面影 book&craft」の打ち合わせで出てきたキーワードだった。打ち合わせといっても自分と妻の二人だけの家族会議のような打ち合わせなのだが。「面影 book&craft」には、展示ができるギャラリースペースを設けている。そこでは、素材、形状、表現などは問わず国内外のクリエイターたちの展示を展開していきたいと思っている。そして、来てくれた方たちに一番伝えたい、持ち帰ってもらいたいものが、そのクリエイターたちの視点の部分。

色々な物事がデジタル化された情報社会の中でamazonなどの検索ボックスに探しているもののキーワードを入れれば大体のものは見つけられてしまう世の中に次第になってきている。けれど、その検索ボックスからは導き出されないものも一方で同時に存在している。特に古くから丁寧にメンテナンスされて長く使われ続けているものなどはそうだ。世代間で引き継がれ、それ自体を使用しているという感覚すらもない日用品などは本質的かつ人間的な良さみたいなこと物の中に凝縮され、言語化されなくとも肌感覚で実感できるだろう。

さて話を戻すと、もう一つこの検索ボックスで引っかからないものがあるとすれば、それはクリエイターたちの視点なのでは無いだろうか。クリエイターたちが日々何を見て、感じ、何を問いかけて、物事として形あるもの、もしくは無いものにしていくのかというところに、そのクリエイターたちのオリジンが詰まっている。あるフィンランドの陶芸家は、何か特別な情景を表現しているというよりは、手から伝わる感触と頭がリンクし合って、自ずと作品となっていくという生み出し方をしていると言っていた。言い方を変えれば、そのクリエイターたちが世界をどう解釈しているのかということを物という形で分かりやすく表現してくれているのだ。考えてみれば、本も同じで大きく言ってしまえば、著者や作者がどのように世界を解釈しているのかということが小説なりエッセイなりで書き留められているのだろう。世の中は無数の解釈で作られていると言っても過言では無いのではないだろうか。

珍しく冬らしい日が続いたお正月の三が日に初詣に出かけた方も多いのではないだろうか。普段のあまり人が集まることもない神社もこの時ばかりは新年らしい装飾を施し人々をお迎えしてくれる。特に地方都市の神社は敷地内に社務所があるわけではなく、普段は自然と同化しているかのごとくひっそりと佇んでいるので、この三が日は眠っていたそれのスイッチが押されたかのように生き生きとしているのがなんだか不思議な気分にさせてもらえた。その装飾で印象的なのが境内の賽銭箱の奥に鎮座している大きな鏡だろう。下界との境界をただじっと眺めているように見えて普段から慣れ親しんだ鏡という素材にも関わらずとても神聖さを感じさせられる。この神社の鏡は一説によると、太陽を表しているとも、参拝した人自身の心を映し出してるとも、言われている。新年の清々しい気持ちで参拝した鏡の奥にはどんなものが映し出されていただろうか。

新年明けましておめでとうございます。「面影 book&craft」の今年のテーマは「解釈」です。扱うプロダクトや本は、鏡のごとく誰かの解釈を伝え、あなたの解釈を照らしてくれるものです。鏡の中に映る世界を眺めてみてください。

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