クリエイティビティのバトン
最近、国内外問わず自費出版で制作された書籍やマガジンを読むことが多くなってきた。それはニュースレターが書籍化されたもの(「いくつもの月曜日」)だったり、人気のポッドキャストのエッセンスを抽出したマガジン(「Creative Voyage Pape」)だったり、26歳という切り口で色々な方々のコラムが編纂された本(「26歳計画」)だったりで、共通しているのが物としての良さを纏っているところにあるだろう。そこにある言葉には自分を必要以上により良く見せようといったものは一切なく、ページに並んだ自然体の言葉がとても心地が良い。たとえ別の媒体を通して見ているはずの文章だったとしても、紙とインクを通した言葉は不思議と自分の頭や心に残り、感じ方も別の媒体で見た時と異なるのがとても面白い。あまりに大切に読み進めていくものだから、全然読み進められずにベッドサイドは雪崩寸前といったところだ。
自分もa quiet dayというインディペンデントマガジンを2015年から合計で12冊出しているのだけれど、デザインされたデータを作ることは場数を踏めばなんとか形にはできる。けれど何度経験しても印刷会社に入稿の際には嗚咽が出そうなほど不安になるし、無事印刷されたマガジンが20個口にパンパンに詰まった120サイズの段ボールが自宅に届いた際などは、ある種の絶望感に苛まれたりもする。ただその段ボールを開封した時の安堵感や高揚感は、人生の何物にも変え難い経験なのだと思う。先にあげた自費出版をされた方々も多かれ少なかれこの情緒不安定さを味わっているのだろうな、と想像してみるとまたなんとも言えない同士感を感じてしまうものでより一層、大事に読み進めてみたくなる。
中でも、最近自宅に届いたCreative Voyage Paperは手にした瞬間の紙質の肌触りや糸中綴じされた作りにクラフト感を感じ、なぜか自分の創作意欲がメキメキと湧いてきてしまった。作っているのはデンマークを拠点にインテリアブランドのアートディレクションなどに携わっているMario Depicolzuane。彼との出会いは、共通の知り合いを通じたもので、同名のPodcastの収録に立ち合わせてもらったことがきっかけだった。Creative.Voyageのヴィジョンは、彼らが生み出すコンテンツによって人々のクリエイティビティを高めていくことにあって、そのPodcastでは様々なクリエイターたちにインタビューを行なって配信していく内容だった。その収録に立ち合わせてもらう中で、彼のインタビュー力などに興味を持ち、最新号のマガジンa quiet day ISSUE2020の中で彼にインタビューをさせてもらい、インタビューというものの本質についての話や今の時代におけるメディアの役割などについて意見を述べてもらった。中でも色々と語ってくれた後に、「色々と行動してアウトプットしているけれど、自分が特別な存在だということではない」としきりに話をしていたことが印象的だった。というのも、彼自身が過去に仕事などで行き詰まった時に、ふと聞いていたPodcastの内容にヒントを得て、ブレイクスルーできたという実体験があり、そういった経験を周りの人たちにも自らが生み出すコンテンツによって追体験して欲しいという思いがあってのことという。
インディペンデントのものは、編集されているストーリーや印字されている言葉、装丁などどこかに必ず情熱と覚悟の断片や作り手が経験してきたことが隠されている。そういったものが手にした人の次なるクリエイティビティを呼び起こしに火をつけて、形を変えながらバトンは繋がっていくのかもしれない。自分も様々な方々から受け取ったバトンを次の方たちにあらゆる形で繋げていきたいものだ。